⼩菅優“ソナタ・シリーズ”Vol.4「神秘・魅惑」記者懇談会より~藤倉大のソナタ日本初演
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
小菅優の“ソナタ・シリーズ”全5回が昨年3月から進行中だ。来年2025年3月には、そのVol.4「神秘・魅惑」が開催される。プログラムに藤倉大の「ピアノ・ソナタ」日本初演が含まれることから、小菅優と藤倉大(オンライン)を迎えた記者懇談会が12月6日に開かれた。
小菅優はこれまで、ベートーヴェンのソナタ全曲シリーズ、印象派や国民楽派などのレパートリーを含めた「Four Elements」シリーズを開催してきた。今回の“ソナタ・シリーズ”は、子どものころから好きだったソナタという形式の中で、バロックから現代まで、作曲家のさまざまな個性を楽しめるプロジェクトにしたいという思いで始めたという。
Vol.4「神秘・魅惑」の曲目は、スクリャービン「ピアノ・ソナタ第9番《黒ミサ》」、藤倉大「ピアノ・ソナタ」(委嘱初演)、ベルク「ピアノ・ソナタop.1」、リスト「ピアノ・ソナタ ロ短調」の4曲で、いずれも単一楽章であることと、静かに終わることが共通している。
小菅は、前回のVol.3「愛・変容」が「善」だったとしたら、今回は出だしから悪の世界へ聴き手を連れ込む「ちょっと危ない回」(笑)にしたいという。
まず、スクリャービン「ピアノ・ソナタ第9番《黒ミサ》」の出だしは、作曲者自身が「メロディでも音楽でもなく、音の呪文だ」と語っており、本当に邪悪なものがこの作品にはあると語る。それと対照的な、スクリャービンならではのエクスタシーもあり、常に聴き手に魔法をかけないといけないという大きな課題がある曲だという。
「ピアノ・ソナタop.1」は、シェーンベルクのもとで対位法と和声を習ったベルクが、最後に卒業制作として書いたソナタ。シェーンベルク、ウェーベルン、ベルクの3人の中で、ベルクがもっとも感情的な作曲家に思えるといい、官能的でありながら悲劇的なクライマックスを迎えるこの曲はロマン派の香りがするという。
中心的な調性がロ短調であるこの曲から、同じくロ短調のリストのソナタが続く。小菅は22歳のときに紀尾井ホールでこの曲を弾き、そのときはゲーテの『ファウスト』と結びつける理論を念頭に置いていたそうだ。「いま思うのは、そういうふうに1つのストーリーに結びつけなくても、悪が存在し善が存在し、人間があり、天があり地獄があり、そのなかでそれぞれが葛藤している。リストのモチーフによって語られるそれぞれのキャラクターを大事にしたいなと思う」
ロ短調ソナタは、リストが演奏活動を離れヴァイマールに移っていた時期に作曲された。「最終的にH-dur(ロ長調)という天国的なものに向かっている。天国に昇り詰めていながら、すでに嘆きがあるというエンディングには、リストの宗教的な一面が現れている。
“ソナタ・シリーズ”の前回は、愛や良きものの中にも悪が漂っていた。今回はほんとうに悪魔、権力の世界。いま世の中でも本当に悪いことがたくさん起きている中で、それでもやはり良きものはある、善はある、希望はあるというのが、このエンディングでもほんとうに言えると思うので、そういうものをお客さまにも見出していただけたらなと思っています」
さて、藤倉大の「ピアノ・ソナタ」日本初演は、Vol.4「神秘・魅惑」における大きな目玉だ。
藤倉はもともと小菅の大ファンだったといい、小菅のピアノの音の美しさを聴きたくて、senza pedale(ペダルなしで)の指示をたくさん書き入れたという。作曲の途中経過を送ると小菅がすぐスマホに録音して送ってくれて、それがインスピレーションになったそうだ。ソナタというお題をもらったからこそ、素材の移調や変型など、他の曲であまりしたことがない新しい体験ができたという。
「藤倉大さんの作品はいつも官能的であったり、エクスタシーというか、そういう色彩感覚がある。藤倉さんのピアノ協奏曲第3番《インパルス》も弾きましたが、この曲にはそれよりもダークなところもあるなと思う。低音の色彩だったり、美しいだけでなくベールがかかったような世界があるなと感じます」(小菅)
「そう言われてみると、この曲は、いつもより苦みとか酸味が強いかなという感じがしました」(藤倉)
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