読みもの
2020.10.09
教育音楽アーカイブ

技術向上と心の成長を止めないための合唱指導

コンクールや演奏会の中止や延期。新型コロナウイルス感染症は授業だけでなく、部活動にも大きな影響を与えています。環境が大きく変わってしまった今、子どもたちの「音楽が好き」という気持ちを途切れさせないために何ができるのか。「教育音楽 中学・高校版2020年10月号」ではポストコロナの部活動ニュースタンダードを探りました。その中から昨年度、全日本合唱コンクール全国大会「同声合唱の部」にて見事金賞を受賞した、さいたま市立宮原中学校の岩渕智哉先生の実践をご紹介します。

「教育音楽」編集部
「教育音楽」編集部  授業・行事・部活にいきる音楽教師の応援マガジン

全国の音楽の先生に役立つ誌面をつくるため、個性あふれる先生、魅力的な授業、ステキな部活……音楽教育の現場を日々取材しています。〔音楽指導ブック〕〔教育音楽ハンドブック...

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三密を徹底的に避けること。

いまや感染防止対策の常識ですが、合唱活動は「密」そのもの。本校では6月下旬から部活動が再開されたものの、連日の報道や活動への制限などから、いっそしばらくの間活動を中止した方がいいのではと考えた時期もありました。

しかし「やっぱり私は歌うことが好き」と話す部員、このような状況にもかかわらず合唱に魅力を感じ入部してくれた38名の新入生を前に、今まで通り歌うことは難しくても、何かできることがあるだろうと思い直し、医師に話を聞いたり、先生方と情報交換したりするなど、制限の多い状況の中、どうすれば効果的な活動を行うことができるか検討することにしました。

禍を転じて福と為す。この期間を部員も教員も成長の期間と捉え、日々試行錯誤しながら活動しています。私の取り組みが、同じように悩んでいる全国の先生方の一助になれば幸いです。

練習再開にあたってのガイドライン

練習再開にあたっては、さいたま市教育委員会が定めたガイドライン(「学校の新しい生活様式における新しい部活動の在り方」に関する方針)および、全日本合唱連盟が定めたガイドライン(合唱活動における新型コロナウイルス感染症拡大防止のガイドライン)に則した活動を行っています。

具体的な留意事項として、以下の点が挙げられます。

  • 出席者の記録
  • 出席者の健康観察(体温、体調)
  • 練習人数は使用場所の定員の半分以下
  • 練習時はマスク着用
  • 練習で使用した場所は記録し、常時換気が望ましい
  • 練習後は教員が使用場所を消毒
  • 隣の人との間隔を最低前後2メートル、左右1メートル以上空ける
  • 全員が集まっての練習(合わせ等)は行わない
  • ミーティングは必要最小限とする

以上の点をまとめると、「出席者、場所の記録」「三密を避けること」がポイントとなるのではないでしょうか。

また、意外と見落としがちなのが、「集合前・解散後、休憩時間の過ごし方」です。練習中は対策を徹底していても、それ以外の時間に何の対策も行わないという状況は、感染防止の観点からは好ましくありません。普段の学校生活と同じく、指導と巡視を行っています。

練習メニュー

現在、本校合唱部は以下の流れで活動を行っています(市の方針により、活動時間は平日90分、休日120分となっており、平日、休日合わせて週4日以内と定められています)。

事前準備

  • 使用教室の申請
  • 消毒液の準備
  • パートリーダーと練習内容の打ち合わせ

活動時間内

  • パートミーティング(人数確認、練習内容の確認、伝達事項等)
  • パート別発声、基礎練習
  • パート練習
  • ミニグループによる合わせ練習
  • パートミーティング(次回の予定、伝達事項等)

活動終了後

  • 使用教室の消毒等

 ※■は教員のみで行う

 

連絡事項や練習メニューはホワイトボードに書き込んで共有する

密にならない練習方法の工夫

本校の合唱部は比較的規模が大きい(1・2年生で58名、3年生引退までは93名でした)ため、全員で集まって練習を行うことは難しいのが現状です。また、少人数練習の場合でも、さまざまな制限の中、活動を行わなくてはなりません。

このような状況の中、どうすれば歌うことが楽しいと思えるような活動ができるか、生徒が上達を実感できるような活動ができるか……今も手探りの最中ですが、これまでの取り組みの中で、効果があったものをいくつかご紹介します。

 

①サイレントものまね

本校では7月下旬より新1年生が入部しました。歌う楽しさを伝えていくことはもちろんですが、悪い癖が付く前に基礎基本を教えておきたいと思っていました。しかし、向かい合っての発声はNG。生徒が互いに触れ合うのはもちろんダメ。さらに活動時は常にマスク着用。さてどうしたものかと思っていたところ、生徒から「口パクであればマスクを外しても大丈夫なのではないでしょうか?」というアイデアが。早速、それを採用することにしました。

この練習は楽曲練習時、伴奏に合わせて、見本となる人の姿勢や口の形などを一言もしゃべらずにまねします。声を出さないとはいえ、念のため通常の活動時よりも離れて行うようにしています。

言葉による説明だけでは理解しづらい生徒にも有効である他、身振り手振りのみで伝え合う活動が生徒たちにとっては楽しいようで、アイスブレイクとしても効果がありそうです。

サイレントものまね

②ミニグループ練習

10人程度のグループをつくり、合わせを行います(1グループに付き一部屋使用)。同じ部分の指導を他のグループにも行わなければならないため、指導側の手間はかかりますが、課題は個人によって異なるため、それぞれに応じた指導が効果的に行うことができます。部員からは、「自分の課題がはっきりした」とおおむね好評です。

また、自分が出している音にいつも以上に責任を持たなければならない状況で練習を行うことにより、部員たちも上達を実感し、自信につながります。

ミニグループ練習

おわりに

新型コロナウイルス感染症による活動の制限やコンクール、演奏会の相次ぐ中止……一体いつまでこの状況が続くのでしょうか。状況が改善し、一日も早く前の生活に戻ることを願うばかりです。

一方、今回の活動制限により、いかに今までの練習に無駄が多かったか、漫然と活動を行っていたかが分かりました。働き方改革もあり、限られた時間の中でいかに効率的、効果的な練習を行うことができるかは、新型コロナウイルス感染症が落ち着いた後も考えなければならないことです。

何より、今回のような状況になって初めて、当たり前のことが当たり前にできたことのありがたさ、仲間とともに歌えることの喜びに気付かされました。「歌は心の栄養」とはよく言ったものです。心が不安定になったり、他者とのつながりが希薄化したりしている今だからこそ、対策を取った上で、無理のない範囲で今後も合唱活動を継続していきたいと思います。

(8月時点)

—『教育音楽 中学・高校版』2020年10月号特集「部活動ニュースタンダード」より/岩渕智哉(埼玉県さいたま市立宮原中学校教諭)
『教育音楽 中学・高校版』2020年10月号
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