読みもの
2021.12.02
「音楽家である前に、人間であれ!」その10(最終回)

ヴァイオリニスト・石田泰尚の硬派なメッセージ「若き音楽家に伝えたい3つのこと」

石田組・組長こと、石田泰尚さんの初めての連載「音楽家である前に、人間であれ!」も今回で最終回。最後に組長からあたたかくも厳しいメッセージをいただきました。

石田泰尚
石田泰尚 ヴァイオリニスト

1973年、神奈川県川崎市生まれ。1995年、国立音楽大学を首席で卒業、新星日本交響楽団にアシスタントコンサートマスターとして入団し、1997年コンサートマスターに就...

取材・構成
能勢邦子
取材・構成
能勢邦子 コンテンツディレクター

「anan」元編集長。「Hanako」「POPEYE」元副編集長。2018年まで約30年間、マガジンハウスで雑誌や書籍の編集に携わり、話題作を次々に生み出す。担当した...

撮影:岩本慶三

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若き音楽家に伝えたいことを3つ挙げます。

まず、周りの人を大切にすること。僕がいま活動できているのは自分だけの力ではありません。ここに来るまでも、いま現在も周りの人のサポートがあるからです。僕は本当に恵まれていました

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2つめに、常に謙虚な気持ち。周りの人のアドバイスを受け入れる謙虚さがないと伸びていきません。プロになると、そして歳をとればとるほど、アドバイスされることは減りますが、僕はますます謙虚に自分に厳しくしています。

例えば、本番でお客さんが盛り上がってわーっとなっても「俺すげえ」と浮かれないようにする。もちろんそのときは僕も興奮して、年に数回、数えるほどの「至高の瞬間」もあるのですが、それでも楽屋に戻ると気持ちを鎮める。「至高の瞬間」は終わった。次がある。明日がある。楽屋で切り替えます。

母が演奏会に来てくれたときなど、僕が帰宅すると興奮して「良かったわ〜」と、ずっとひとりでしゃべっているのですが、僕は疲れちゃって、そのテンションについていけない。すると母に「何よ。つまらないわねぇ」と言われたものです。余韻に浸れなくて、もったいないのですが、でも、いい気になって調子に乗らないように、そうしています。

3つめは、具体的な目標を立てること。具体的な目標を言葉にして、それを叶える。達成したらまた目標を立てる。僕は若いときから有言実行でやってきたし、いまでもそれは続けています。

「なりたい」「やりたい」を明確にする。

僕が、新星日本交響楽団でアシスタントコンサートマスターを務めていた23歳の頃、ときどきNHK交響楽団のエキストラに行っていたのですが、N響のコンマスになったばかりのまろ(篠崎史紀)さんに言われたことがあります。「石田くんはN響に入りたいの? それともコンマスになりたいの?」。コンマスになりたいと答えると、「だったらもうN響には来ないほうがいい。安売りすることになる」と。

その通りだなと思い、以降、N響のエキストラに出ることをやめ、翌年、新星日響の正コンマスになりました。まろさんの教えは新星日響を辞めたときにも肝に染みていて、結果的に神奈川フィルハーモニー管弦楽団のコンマスに就任するのですが、今振り返ってもあのアドバイスはとてもありがたかったです。

だから、同じことを後輩にも言ったことがあります。ゲストコンサートマスターで出演したあるオーケストラでN響の団員さんを見かけたときに、「安売りするな」と。彼がどうしたか、その後はわかりませんけれど。

若い音楽家に相談されることもあります。「この楽団を受けようと思っているんですけど」「ここから誘われているんですけど」、そういう相談を受けると、「いいんじゃない」と答えます。「いいんじゃない。俺は応援するけど」と後押しします。

「受けようと思っているんですけど」と僕に相談する時点で、その楽団を受けたいと思っているに違いないからです。やりたいと思ったことはやったほうがいい。他のことを気にせず、我が道を行ってほしい。受かる受からないは置いておいて、受けると決め、それに向かって課題曲を練習する、オーディションを受ける、そのこと自体、必ずその人のステップアップになります。

決断を重ねながら我が道を進むのみ。

音楽家として食べていけるのは、ほんの一握りです。だから、目標を立てそこに向かってほしいし、つかんだチャンスは“がむしゃら”にものにしてほしい。

オーケストラのオーディションに受かったのに試用期間で落とされてしまった石田組のメンバーに説教したこともあります。例えばオーケストラでヴァイオリン一人募集すると100人ぐらい応募してきます。それで一人もとらなかったりする厳しい世界で、せっかく受かっておきながら試用期間で落とされるというのは、よほどのことです。実際、あまり練習をしてこなかったみたいで、それを知って、「おまえ、オーケストラ、なめてんだろう。一から出直せ」と怒りました。彼も今は頑張っているので、ときどき石田組に声をかけています。

ただ誰にでも“がむしゃら”に頑張れと言えるわけではありません。諦めていく人も多く見ていますが、仕方がないこともあります。エキストラが呼ばれる仕事が減ったり、コロナ禍による状況の変化も心配しています。僕自身は、オーディションを受けたこともないし、諦めたこともないから、無責任にアドバイスはできません。

ただ、これだけは言えます。才能があるのかないのか、周りに恵まれているのかいないのか、時代の運、不運も含め、同じ道は決してないということ。僕のようになりたいからと僕の真似をしても僕にはなれない。君には君の音楽家としての人生があるのです。

だから、後悔のないよう、一回一回自分で決断し、我が道を進んでほしい。周りの人を大切に、常に謙虚な気持ちで、目標を達成しながら上へ上へと、高みを目指してもらいたい。

僕もまだまだ我が道の途中です。

本日の私物拝見!

大学4年のとき最後の定期演奏会です。指揮はフォルカー・レニッケさんでした。

謹告!

ご愛読ありがとうございました。連載「音楽家である前に、人間であれ!」は、新たな原稿と写真を加えて、来年6月に単行本として出版予定です。ご期待ください!

石田さんが出演する公演情報
巡回主催公演フューチャー・コンサート藤沢公演 ベートーヴェン「第九」

日時:2021年12月17日(金)19:00開演

会場:藤沢市民会館 大ホール

曲目:ベートーヴェン/交響曲第九番ニ短調Op.125「合唱付き」

出演:川瀬賢太郎(指揮)、小林良子(ソプラノ)、林美智子(アルト)、清水徹太郎(テノール)、宮本益光(バリトン)、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、プロ歌手による神奈川フィル第九合唱団

料金:全席指定 1階席5,000円、2階席2,000円

詳しくはこちら

巡回主催公演フューチャー・コンサート横浜公演 ベートーヴェン「第九」

日時:2021年12月18日(土)14:00開演
会場:神奈川県民ホール 大ホール
曲目:ベートーヴェン/交響曲第九番ニ短調Op.125「合唱付き」
出演:川瀬賢太郎(指揮)、小林良子(ソプラノ)、林美智子(アルト)、清水徹太郎(テノール)、宮本益光(バリトン)、神奈川フィルハーモニー管弦楽団、プロ歌手による神奈川フィル第九合唱団
料金:全席指定 S席7,000円(予定枚数終了)、A席5,500円、B席4,000円
詳しくはこちら

石田泰尚ヴァイオリン・リサイタル

日時:2021年12月25日(土)15:00開演

会場:八ヶ岳高原音楽堂

曲目:ブラームス/ヴァイオリン・ソナタ第1番ト長調 作品78「雨の歌」

ブラームス/F.A.Eソナタ第3楽章「スケルツォ」

シベリウス/ソナチネ 作品80

シベリウス/4つの小品 作品78

グリーグ/ヴァイオリン・ソナタ第2番ト長調 作品13

共演:中島剛(ピアノ)

料金:コンサートチケットのみ8,500円

詳しくはこちら

ファンタスティック・ガラコンサート2021

日時:2021年12月29日(水)15:00開演

会場:神奈川県民ホール 大ホール

曲目:チャイコフスキー/バレエ音楽「眠れる森の美女」より序奏とリラの精

プッチーニ/交響的奇想曲

ニーノ・ロータ/映画「ロミオとジュリエット」より愛のテーマ

R.シュトラウス/交響的幻想曲「イタリアから」より第4楽章

プッチーニ/オペラ『ラ・ボエーム』より「冷たき手を」~「私の名はミミ」~「私が街を歩くと」~「さようなら、朝の甘い目覚めよ」

グノー/オペラ『ロミオとジュリエット』より「私は夢に行きたい」、「ああ太陽よ昇れ」

マイアベーア/オペラ『ディノーラ』より「軽やかな影(影の歌)」

マスネ/オペラ『エロディアード』より「はかない幻」

チャイコフスキー/バレエ「眠れる森の美女」よりグラン・パ・ド・ドゥ

ロシア民謡/黒い瞳

ヘンデル(ハルヴォルセン編曲)/パッサカリア

出演:三ツ橋敬子(指揮)、宮本益光(司会・バリトン)、髙橋維、伊藤晴(ソプラノ)、村上公太(テノール)、上野水香、厚地康雄、ブラウリオ・アルバレス(バレエ)、石田泰尚(ヴァイオリン)、中島剛(ピアノ)、神奈川フィルハーモニー管弦楽団

料金:全席指定 S席8,000円、S席ペア15,000円、A席6,000円、B席4,000円、C席3,000円、 学生(24歳以下)2,000円

詳しくはこちら

石田泰尚
石田泰尚 ヴァイオリニスト

1973年、神奈川県川崎市生まれ。1995年、国立音楽大学を首席で卒業、新星日本交響楽団にアシスタントコンサートマスターとして入団し、1997年コンサートマスターに就...

取材・構成
能勢邦子
取材・構成
能勢邦子 コンテンツディレクター

「anan」元編集長。「Hanako」「POPEYE」元副編集長。2018年まで約30年間、マガジンハウスで雑誌や書籍の編集に携わり、話題作を次々に生み出す。担当した...

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