読みもの
2021.07.18
「音楽家である前に、人間であれ!」その2

ヴァイオリニスト・石田泰尚の硬派なメッセージ「“がむしゃら”が幸運を呼ぶ。」

超ド級のヴァイオリニスト・石田泰尚さんの初めての連載は、各世代に向けて発信する本音のメッセージ集。これまでの歩みを辿りつつ、さまざまな逆境を乗り越えてきたその類まれな信念の軌跡を追います。

石田泰尚
石田泰尚 ヴァイオリニスト

1973年、神奈川県川崎市生まれ。1995年、国立音楽大学を首席で卒業、新星日本交響楽団にアシスタントコンサートマスターとして入団し、1997年コンサートマスターに就...

取材・構成
能勢邦子
取材・構成
能勢邦子 コンテンツディレクター

「anan」元編集長。「Hanako」「POPEYE」元副編集長。2018年まで約30年間、マガジンハウスで雑誌や書籍の編集に携わり、話題作を次々に生み出す。担当した...

撮影:岩本慶三

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ヴァイオリンで食べていこうと決めたのは高校3年生の秋、ある日のことです。

明星高等学校だったので、それまではそのまま明星大学に進学するつもりでした。ヴァイオリンは3歳から続けていて、それなりに弾けるから明星大学のオーケストラに入ったら、ちやほやされるかな、ちやほやされちゃおう、ぐらいに思っていました。

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その日は、担任の先生の引率で大学見学に行ったのです。広い構内でいろいろな施設を見学しながら、ずっと自分の中で、はてなマークがありました。あれー? あれー? 何か違う。俺、ここで何するんだろう? ここで学部を選んで勉強するイメージがまったく持てない。もしかしたら音大? 帰宅してすぐ両親に告げました。「音大、行きます。行かせてください」と。両親は驚かなかったです。

それからはもう大慌てで音大を受ける猛勉強。子どもの頃に少しやっていたピアノの練習、楽典(音楽の基礎的な諸規則)、聴音(音楽を聴いて楽譜に書き起こす)など必死でやりました。音大受験を決めるのは遅かったのですが、浪人はしたくなかったのです。最初についていたヴァイオリンの先生が国立音楽大学卒業で、国立が僕に合っていると言ってくれたので、それで国立を目指しました。

音大受験の冬季講習で、ヴァイオリンの課題曲を練習するグループレッスンがありました。4、5人のグループで、僕はたまたま徳永二男(とくながつぎお)先生についたのですが、徳永先生が目の前で弾いてくれたときは本当に衝撃を受けました。僕が課題曲を弾くと、徳永先生は、「他の科目のことはわからないけれど、ヴァイオリンだったら間違いなく国立受かるよ」と太鼓判を押してくれました。

学生時代の転機はガツンと振り下ろされた。

いざ国立に入ると、最初のヴァイオリンの先生が言ってくれたように自由な校風は僕にピッタリ。「国立で一番目立ってプロになってやる」と思いましたが、実際すぐに目立っていました。ヴァイオリンも存在も何もかも。

新歓コンパで1つ上の先輩から聞いたのですが、僕は受験のときの実技試験でほぼ満点だったらしいのです。だから入学前から「とんでもねえのが入ってくる」と噂になっていたとか。音大は女子学生が多いので、ずいぶん、ちやほや、もてはやされました。

2年になって、新入生が入ってくると、また「あの人が噂の」と人気になります。だから、その頃は、めちゃくちゃ有頂天になっていました。「俺、すげー」みたいな感じ、いま思うと恥ずかしいぐらいです。

ところがです。大学4年の夏休みに入る直前、チェロの小野﨑純先生から呼び出されました。チェロの同級生に「石田、呼ばれてるよ」と言われ、「マジで? 何かな?」「いや、わからない」「めっちゃ怖いんだけど」と恐る恐る行ったら、ガツンと言われました。「おまえさ、自分で上手いと思ってんだろ?」。正直、少しは思っていたのですが、「いや、思ってないです」と答えました。そしたら、「おまえさ、おまえぐらいの実力は世の中に出たら、ごまんといるんだ。現状に満足するんじゃない」と。

それで、すっかり気持ちを入れ替えたのです。それまではソロ・コンチェルトなどソロの曲ばかり、わーっと練習していました。「オラー、お前ら、聴けー」みたいな感じです。それが一転、アンサンブルを徹底的に練習し始めました。ちょうど、その頃、ふたつの好機がありました。

カルテットの地道な練習がもたらしてくれたもの。

ひとつは、室内楽の授業です。小野﨑先生もそうですし、徳永先生も堀正文先生も、当時、現役バリバリの先生がたが、目の前で弾いてくださる。僕にとっては、それがめちゃくちゃ大きかった。少しでも盗んでやろうと、がむしゃらに練習しました。

もうひとつは、カルテットを結成したことです。パーティの仕事で組んだ、国立のチェロの先輩と、東京音楽大学のヴァイオリンとヴィオラのかた。東京音大のかたがとても上手くて、この4人で本格的にやりたいと思ったのです。

カルテットはアンサンブルの基礎中の基礎なので、今までのソロの演奏が通用しません。スタイルを変えないといけない。ベートーヴェンのOp.18-1とか、バルトークの3番とか、メトロノームをゆっくりゆっくりかけて、一音ずつ音程を合わせて、「ちょっと高いよ」「微妙に低いよ」。コンクールや助成金を目標に、「こんなことまでするんだ」という合わせとリハーサルを何度も繰り返しました。

ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第1番ヘ長調、バルトーク 弦楽四重奏曲第3番

そうこうするうち、秋頃、新星日本交響楽団から電話をもらったのです。一番後ろで弾くものだと思っていたら、コンサートマスターの横で弾いてくれと言われ、びっくりしました。それまでコンマスになれるとは夢にも思っていなかったですし、どうやったらコンマスになれるのかも知らなかった。でも、そのとき、もしかしたら僕にもチャンスがあるかもしれないと思いました。もっと頑張ろう、さらに頑張ろう、と。

新星日響でアシスタントのコンマスになり、2年後コンマスになるのですが、そのときも首席奏者のかたがたが、「石田を上げろ」と口々に推薦してくださいました。

高校3年の秋から冬、大学4年の夏から秋、そして、プロとしてのスタート、すべて周りの環境が良かった。僕がまだ漠然としているところに、いろいろな幸運が重なり本当に恵まれていました。先生がた、先輩や団員さんがた、両親、周りの大人たちに心から感謝しています。

だから僕も少しでも若者の役に立ちたい。僕きっかけでヴァイオリンを始めた、なんて聞くと、とてもうれしいのです。

本日の私物拝見!

1726年製のイタリアの名器〈M.Goffriller〉(ゴフリラ)は5年ぐらい前に手に入れました。いつもはヴァイオリンを〈エルメス〉のスカーフで包んでから納めています。白く見えているクッション材は、実は、猫のぬいぐるみだったりします。

公演情報
石田泰尚ヴァイオリン・ソロ・リサイタル

日時:2021年8月1日(日)

会場:宗次ホール

曲目:アグリ/アディオス・ノニーノ変奏曲

イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第4番ホ短調Op.27-4

ブロッホ/無伴奏ヴァイオリン組曲第2番

テレマン/無伴奏ヴァイオリンのための12のファンタジアより第10番ニ長調/第11番へ長調/第12番イ短調

J.S.バッハ/無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調BWV1004

料金:全席自由4,500円

詳しくはこちら

京都市交響楽団(フェスタ サマーミューザ KAWASAKI 2021)

日時:2021年8月4日(水)

会場:ミューザ川崎シンフォニーホール

曲目:ブラームス/ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲

ベートーヴェン/交響曲第3番「英雄」

出演:広上淳一(指揮)、黒川侑(ヴァイオリン)、佐藤晴真(チェロ)

料金:S席:5,000円、A席:4,000円、B席:3,000円

詳しくはこちら

エビナ・プロムナード・コンサート 石田泰尚ヴァイオリンリサイタル

日時:2021年8月21日(土)

会場:海老名市文化会館 大ホール

曲目:ラヴェル/亡き王女のためのパヴァーヌ

クライスラー/テンポ・ディ・メヌエット

ピアソラ/アディオス・ノニーノ

ピアソラ/フラカナーバ

ヘス/映画「ラヴェンダーの咲く庭で」より「テーマ」

ヘス/映画「ラヴェンダーの咲く庭で」より「ヴァイオリンと管弦楽のためのファンタジー」

ロドリゲス(大橋晃一編曲)/ラ・クンパルシータ ほか

共演:中島剛(ピアノ)

料金:全席指定3,000円

詳しくはこちら

石田泰尚
石田泰尚 ヴァイオリニスト

1973年、神奈川県川崎市生まれ。1995年、国立音楽大学を首席で卒業、新星日本交響楽団にアシスタントコンサートマスターとして入団し、1997年コンサートマスターに就...

取材・構成
能勢邦子
取材・構成
能勢邦子 コンテンツディレクター

「anan」元編集長。「Hanako」「POPEYE」元副編集長。2018年まで約30年間、マガジンハウスで雑誌や書籍の編集に携わり、話題作を次々に生み出す。担当した...

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