読みもの
2021.08.22
「音楽家である前に、人間であれ!」その4

ヴァイオリニスト・石田泰尚の硬派なメッセージ「親孝行、できているかな」

石田組・組長こと、石田泰尚さんの初めての連載「音楽家である前に、人間であれ!」。第4回は「親孝行」について。いまは亡きお母さまの思い出をしのびます。

石田泰尚
石田泰尚 ヴァイオリニスト

1973年、神奈川県川崎市生まれ。1995年、国立音楽大学を首席で卒業、新星日本交響楽団にアシスタントコンサートマスターとして入団し、1997年コンサートマスターに就...

取材・構成
能勢邦子
取材・構成
能勢邦子 コンテンツディレクター

「anan」元編集長。「Hanako」「POPEYE」元副編集長。2018年まで約30年間、マガジンハウスで雑誌や書籍の編集に携わり、話題作を次々に生み出す。担当した...

撮影:岩本慶三

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今日、8月22日は母の命日です。3年前に心不全で亡くなりました。

朝早く父に起こされ、もうそのときには応答がなくて慌てて救急車を呼んだのですが間に合いませんでした。自宅で亡くなったので警察が来たりバタバタしましたが、それを見届けてから僕は京都へ行きました。翌日から京都市交響楽団のリハーサルだったのです。もちろん自分のなかでも何が何だか、わけがわからない状態でした。ぼーっと真っ白のまま、京都のホテルの周りを散歩しました。

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26日定期演奏会の曲目はブリテンの《戦争レクイエム》Op.66。大小2群のオーケストラと、ソプラノ、テノール、バリトンの独唱、混成合唱と児童合唱という大編成による6楽章90分の大曲です。レクイエムということで合唱団も黒の衣装で統一され、壮観な演奏でした。京響の団員さんたちに母のことを話したのは、その本番が終わってからです。

ブリテン《戦争レクイエム》Op.66

帰京後もラジオ出演やリサイタルの予定が詰まっていて、その合間を縫って家族葬をしました。母が好きだった曲はたくさんあるのですが、葬儀でかけたのは僕のライブ盤のブラームス『ALL BRAHMS LIVE』から〈雨の歌〉でした。

少し休んだら? と言ってくれる人もいたのですが、母が生きていたら「仕事に行きなさい」と言うと思うので、すべての仕事を予定どおり続けました。一度も立ち止まらなかったので、しばらくはぼーっとしたままでしたが。

ブラームス〈雨の歌〉

僕を心配し続けた母の小言がやんだ日。

我が家は、父、母、兄、そして僕の4人家族です。父と僕は無口で(兄は無口でもないですが)母がべらべらしゃべる。子どものころからずっと注意されてばかりいました。「勉強しなさい」「練習しなさい」「塾に行っているのになんで成績上がらないの。行ってる意味ないじゃない。だったら塾なんてやめなさい」。

進路についてもずいぶんうるさく言われました。ヴァイオリンで食べていけるか心配だったのでしょう。「あなた卒業したらどうするの」「このままで大丈夫なの」と小言ばかり。うるさいなーと思っていたのですが、大学4年の秋、新星日本交響楽団で弾くようになってから、だんだん言わなくなりました。たぶん何とかなるんじゃないかと母のなかで安心したのだと思います。

母自身は洋裁をしていました。人に頼まれてドレスを作ったり、僕のステージ衣裳も作ってくれました。もちろん着たこともありますし、今でもたまに着ます。料理も上手でした。生姜焼き、焼きそば、餃子、トンカツ、野菜炒め、何を作ってもすべて美味しかった。今思うと天才的です。

性格は、めちゃくちゃ明るくて、すごくフレンドリー。どんな人にも同じように接していて、それは僕には真似できないなあと思います。僕の場合、人づきあいに時間がかかるし、同等に接しようと意識してやっている。でも母は最初から誰とでも自然に付き合えるところがありました。

少年時代はみんなでワイワイが好きだった。

僕がヴァイオリンを始めたのは3歳の頃らしいです。テレビから流れてくる音楽にリズムをとっていたのを親が見て、何か音楽をやらせたほうがいいんじゃないかと、たまたま近くにあったスズキ・メソード音楽教室に通わせたのがきっかけです。

思い出に残っているのは、スズキ・メソードの合宿が夏に松本であったこと。毎年全国から子どもたちが集まって、それがとても楽しかった。小学校になると野球やサッカーで遊んでばかりいて、ヴァイオリンの練習に行くのが嫌になる日もありました。けれど、なぜかやめなかった。小学校5年生で藤沢ジュニアオーケストラに参加したことも大きいです。オーケストラも合宿があってめちゃくちゃ楽しかった。

僕は、みんなでワイワイして、輪の中心にいたいタイプです。目立ちたがりで、応援団長をしたり、学芸会で独唱をしたりしていました。人の中心にいたいところ、そこは母に似ています。でもそれ以外は僕は父に似ています。無口なところ、綺麗好きなところ。

母は、僕がプロになってからずっと聴きにきていた、一番のファンでした。会場では僕のファンに囲まれることもあり、喜んでいたと思います。ヴァイオリンを始めたきっかけも父というより母だったのかな。ちゃんと聞いたことはないですけれど。今考えると母が導いてくれたのかもしれません。

心臓が弱く、だんだん演奏会に来られなくなっていたのですが、亡くなる3日前、19日に行なわれた名古屋の宗次ホールのリサイタルに来てくれました。たぶん、たぶんですが、自分の体は自分が一番わかっていたと思うので、これが最後になるかもしれない、這ってでも行きたいと思ったのでしょう。

最近は、母の代わりに父が公演に来てくれます。父も喜んでくれています。

母にも父にも親孝行できているかなと思います。

本日の私物拝見!

石田さんが初めて出演した演奏会のプログラム。

1977年9月24日、4歳のとき、僕が初めて出た演奏会のプログラムです。プログラムに演奏会の写真がクリップで留められていて、母がこんなふうに整理してくれていたのだなあと、改めて感謝の気持ちでいっぱいになります。

公演情報
音楽堂アフタヌーンコンサート2021後期《無伴奏》石田泰尚 ヴァイオリン・リサイタル

日時:2021年9月7日(火)13:30開演

会場:神奈川県立音楽堂

曲目:ビーバー/パッサカリア

イザイ/無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第4番ホ短調Op.27-4

ブロッホ/無伴奏ヴァイオリン組曲第2番

テレマン/無伴奏ヴァイオリンのための12のファンタジアより第10番ニ長調/第11番へ長調/第12番イ短調

J.S.バッハ/無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番ニ短調BWV1004

料金:全席指定5,000円

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神奈川フィルハーモニー管弦楽団 ファミリーコンサート

日時:2021年9月18日(火)14:00開演

会場:西条市総合文化会館 大ホール

曲目ビゼー/劇付随音楽「アルルの女」より「ファランドール」

ビゼー/歌劇「カルメン」組曲より「間奏曲」

ビゼー/組曲「カルメン」より「トレアドール」

ビゼー/歌劇「カルメン」より「闘牛士の歌」

マスカーニ/歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」より「間奏曲」

モーツァルト/歌劇「魔笛」より「俺は、鳥刺し」

マスネ/タイスの瞑想曲

ベートーヴェン/交響曲第7番イ長調Op.92より第4楽章

料金:一般2,000円 学生(高校生まで)1,000円 

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ピアソラ生誕100年記念 硬派弦楽アンサンブル石田組

日時:2021年9月20日(月・祝)14:00開演

会場:びわ湖ホール大ホール

曲目:ヴィヴァルディ/四季

ピアソラ/ブエノスアイレスの四季

ローリング・ストーンズ(松岡あさひ編曲)/悲しみのアンジー

レッド・ツェッペリン(松岡あさひ編曲)/天国への階段

クイーン(松岡あさひ編曲)/ボーン・トゥ・ラブ・ユー

料金:全席指定3,500円、青少年(25歳未満)1,500円

詳しくはこちら

石田泰尚
石田泰尚 ヴァイオリニスト

1973年、神奈川県川崎市生まれ。1995年、国立音楽大学を首席で卒業、新星日本交響楽団にアシスタントコンサートマスターとして入団し、1997年コンサートマスターに就...

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能勢邦子 コンテンツディレクター

「anan」元編集長。「Hanako」「POPEYE」元副編集長。2018年まで約30年間、マガジンハウスで雑誌や書籍の編集に携わり、話題作を次々に生み出す。担当した...

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