読みもの
2021.09.17
「音楽家である前に、人間であれ!」その5

ヴァイオリニスト・石田泰尚の硬派なメッセージ「練習以上のものは出ない」

石田組・組長こと、石田泰尚さんの初めての連載「音楽家である前に、人間であれ!」。今回は演奏家として最も大切な練習哲学について明かしてくれました。組長ならではの「時間の使い方」も必読です。

石田泰尚
石田泰尚 ヴァイオリニスト

1973年、神奈川県川崎市生まれ。1995年、国立音楽大学を首席で卒業、新星日本交響楽団にアシスタントコンサートマスターとして入団し、1997年コンサートマスターに就...

取材・構成
能勢邦子
取材・構成
能勢邦子 コンテンツディレクター

「anan」元編集長。「Hanako」「POPEYE」元副編集長。2018年まで約30年間、マガジンハウスで雑誌や書籍の編集に携わり、話題作を次々に生み出す。担当した...

撮影:岩本慶三
神奈川フィルの練習会場「かながわアートホール」にて

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本番でいいパフォーマンスをするためには、やはり練習が大切です。練習以上のものは出ないと僕は思っています。

休みの日なら1日5〜6時間。朝から3時間ぐらいやって、途中で昼寝をして、また3時間ぐらいやります。本番やリハーサルの日も、できるだけ早く楽屋入りして練習します。時間より質が大切なので、ガーッと弾いて、自分なりの手応えを感じたら、よしっと終える。納得できなければ、もっと長くやることもありますし、集中力が切れてしまったら後回しにしたり、翌日に回すこともあります。集中できないまま、だらだら長く続ける練習は僕にはありません。

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集中するコツは前もって練習する曲を決めておくことです。僕の場合は、何週間も前から紙に日にちごとに練習予定の曲目を書き込んでおきます。本番前は本番の曲を練習するとも限らなくて、ソロの曲をやったり、オーケストラの曲をやったり、練習用のメニューがあったり、いろいろですが、「今日はこの曲」と決めておくことで、すぐに集中できます。僕はスケジュールが空いているとどんどん詰め込んでしまうほうなので、本番とリハの間を縫って効率よく練習するには、この予定表が欠かせません。

予定どおり練習をして、ガーッといい集中ができれば、スパッとやめ音楽以外のことをします。音楽以外のことといっても、昼寝、テレビ、散歩、パチンコ……。何かをするというより、何もしない時間です。例えば散歩をしながら、また練習がやりたくなったり、演奏のことを考えてしまうようなことはありません。何も考えない。京都に行くと、同じところを飽きもせず街並みを楽しみながら歩いています。時間の切り替えはハッキリしています。

コロナ禍で確固たる思いを強めた。

音楽以外のことにあまり興味がないということもあります。食事もお腹がいっぱいになればいいし、ファッションや日用品も決まったものだけでいい。趣味もないですし、何か始めてみようとも思いません。音楽以外は、昼寝、テレビ、散歩、パチンコ……って、つまらないやつですよね。「つまらないわねー」「つまらない男ねー」「他にないの」と母にも言われていました。

でも、今回、コロナ禍で改めて強く思っているのです。「やれるときにやれるだけやっておこう」と。

2020年2月、すべてのクラシック公演が延期・中止され、4月には緊急事態宣言が発出されました。自粛期間は練習にも身が入らないし、早くお客さんの前で弾きたい、いつまたお客さんの前で弾けるようになるのか、もうそればかり思っていました。

6月、碧南市芸術文化ホールで、YAMATO String Quartetの公演(ベートーヴェン作曲の弦楽四重奏曲第15番イ短調Op.132)が再開一発目でしたが、小さなホールに50%の定員で、喜びというより、まだ恐る恐るという感じでした。

ベートーヴェン作曲の弦楽四重奏曲第15番イ短調Op.132(*演奏はエマーソン弦楽四重奏団)

満席のお客さんで再開を実感できたのは今年の春ごろですが、いままた感染者が急増し明日はどうなるかわからない状況です。いつ再びストップがかかるかもしれない。この1年半、普通に公演があってお客さんの前で演奏できるのは当たり前のことではないんだと、つくづく実感しました。お客さんの前で演奏するありがたさを思うと、今、できるときに、今、できる限り、いろいろな本番をやっておこうと、さらに意を強くしています。

スケジュールを詰めれば詰めるほど練習も大変ですし、体力的にもキツいのですが、今はお客さんの前で演奏できることが何よりうれしいのです。

時間の切り替えとエネルギーの集中。

そのためにも時間の使い方は大切です。時間の切り替えを上手にして、練習や本番の集中力を高め、それ以外のことはあまり考えない。僕は本番前にも30分ぐらい楽屋で寝るのですが、この何もしない時間が、音楽への集中をより高めてくれるのかもしれないです。

時間について言えば、遅刻も絶対にしないと誓っています。もう20年ぐらい遅刻はしていません。

神奈川フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターに就任して1か月ぐらいのとき、寝坊でリハーサルに遅刻したことがあります。45分ぐらい遅刻して団員さんたちに拍手で迎えられました。僕一人の遅刻で団員さんたち100人ぐらいに迷惑をかけるわけです。指揮者やソリストにも迷惑をかける。だから遅刻は絶対にダメです。

人が遅刻するのも嫌です。石田組で遅刻なんかしたら、もうその人は呼ばない。リハーサルの時間が決まっているのに他の仕事を入れて遅れたりドタキャンしたり、そういうことも大嫌いです。人の貴重な時間を無駄にするわけですから、絶対にいけない。

限られた時間を切り替えと集中で上手に使って、すべてのエネルギーをヴァイオリンの演奏に注ぎ込みたい。そうして、ソロもオーケストラもユニットも休む暇なく、エネルギーの限り前に突き進みたい。5年後、10年後というより、今、今この演奏活動を少しでも長く続けていきたい。

改めてそう思っている今日この頃です。

本日の私物拝見!

〈GATSBY〉のシャワーフレッシュは香水ほど強くなくて爽やかな香りなので気に入っています。全身薬用ローション、アフターシェイブローション……、日用品はどれもずぅーっと長いこと同じものを使っています。

公演情報
石田泰尚×津田裕也 ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会

日時:2021年9月23日(木)13:00開演、17:00開演(1日2公演)

会場:りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・コンサートホール

曲目:Part① ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第1番ニ長調、第2番イ長調、第3番変ホ長調、第4番イ短調、第5番ヘ長調「春」

Part② ベートーヴェン/ヴァイオリン・ソナタ第6番イ長調、第7番ハ短調、第8番ト長調、第9番イ長調「クロイツェル」、第10番ト長調

共演:津田裕也(ピアノ)

料金:Part①Part②セット券7,000円、1回券4,500円

詳しくはこちら

ヨコハマ・ポップス・オーケストラ2021ブロードウェイ・ショータイム!~歌とヴィジュアルを楽しむミュージカル・ヒストリー~

日時:2021年9月28日(火)19:00開演

会場:神奈川県民ホール

曲目:ザッツ・エンターテインメント・メドレー

ウエスト・サイド・ストーリー・セレクション

サウンド・オブ・ミュージック(ダイジェスト)

出演:菊地美奈(ソプラノ)、井出壮志朗(バリトン)、吉田孝(ナレーション)、洗足学園大学ミュージカルコースのみなさん、齊藤一郎(指揮)、神奈川フィルハーモニー管弦楽団

料金:S席4,500円、A席3,500円、ユース(25歳以下)1,000円

詳しくはこちら

《死と乙女/天使と悪魔》YAMATO String Quartet

日時:2021年10月16日(土)13:30開演

会場:ミューザ川崎シンフォニーホール

曲目:シューベルト/弦楽四重奏曲第14番ニ短調D810「死と乙女」

ピアソラ/「天使の組曲」~天使のミロンガ/天使の死 ほか

ピアソラ/「悪魔の組曲」~悪魔のロマンス ほか

マイヤーズ/カヴァティーナ(映画「ディア・ハンター」より)

ピンク・フロイド/狂気

出演:石田泰尚(第1ヴァイオリン)、執行恒宏(第2ヴァイオリン)、榎戸崇浩(ヴィオラ)、阪田宏彰(チェロ)

料金:全席指定5,000円

詳しくはこちら

石田泰尚
石田泰尚 ヴァイオリニスト

1973年、神奈川県川崎市生まれ。1995年、国立音楽大学を首席で卒業、新星日本交響楽団にアシスタントコンサートマスターとして入団し、1997年コンサートマスターに就...

取材・構成
能勢邦子
取材・構成
能勢邦子 コンテンツディレクター

「anan」元編集長。「Hanako」「POPEYE」元副編集長。2018年まで約30年間、マガジンハウスで雑誌や書籍の編集に携わり、話題作を次々に生み出す。担当した...

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