読みもの
2021.10.01
「音楽家である前に、人間であれ!」その6

ヴァイオリニスト・石田泰尚の硬派なメッセージ「孤独ではなく孤高に生きる」

石田組・組長こと、石田泰尚さんの初めての連載「音楽家である前に、人間であれ!」。ひとつのことを極めるには、得てして犠牲を強いられるもの。孤独と背中合わせの音楽家にとって、究極の生き方とは?

石田泰尚
石田泰尚 ヴァイオリニスト

1973年、神奈川県川崎市生まれ。1995年、国立音楽大学を首席で卒業、新星日本交響楽団にアシスタントコンサートマスターとして入団し、1997年コンサートマスターに就...

取材・構成
能勢邦子
取材・構成
能勢邦子 コンテンツディレクター

「anan」元編集長。「Hanako」「POPEYE」元副編集長。2018年まで約30年間、マガジンハウスで雑誌や書籍の編集に携わり、話題作を次々に生み出す。担当した...

撮影:岩本慶三

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悩みを吐露したり、なんでも言い合える友だち、いわゆる親友のような存在はいないです。もちろんオーケストラで仲のいい人はいますし、石田組でも地方に行ったときはみんなでごはんを食べますが、だからといって、ふだん会うわけでもない。電話で話したり、メッセージアプリでやりとりすることもない。仕事仲間です。

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幼馴染や学校の友人と何年かぶりに会って、会えば昔話で盛り上がりますが、それもめったにないですし、なんでも言い合えるというわけでもない。仕事が違いすぎて、なかなか理解してもらえないということも大きいと思います。切磋琢磨するライバルもいない。何かにつけ相談するメンターもいない。

考えてみると、僕は孤独かもしれません。子どもの頃は大勢でワイワイやって、その中心にいるのが好きだったのに、今はワイワイやるときはやるけれど、それがずっと続くのも調子が狂うし、やはり基本は孤独なのでしょう。

でも、孤独だから寂しいということはありません。一流の音楽家と一緒に音楽をやるなかで得るものはたくさんあります。僕は感覚で弾くタイプですが、理論派の音楽家に何か言われると「なるほどね」と思う。共演者に「ここをこうしたらどう?」と言われ、「あ、それもいいなぁー」と思う。そういった気づきの繰り返しで音楽の幅が広がっていく。音楽性を高めていける。そんな気がします。

音楽は音楽のもつ自然な流れが美しい。

音楽家同士で音楽性を高め合うというのは言葉で説明するのが難しいのですが、ひとつ例を挙げます。

もう10年以上前のことですが、共演したピアニストのかたから、「石田くん、そこ合図いらないから」と言われました。ヴァイオリンを弾きながら伴奏とタイミングを合わせるために、何らかの合図をすることが僕の癖になっていたのです。

「合図しなくても見てればわかる」と言われ、そのときは「そうなんだ、いらないんだ」と思いましたが、家に帰ってヴァイオリンとピアノのスコアを見て改めて気づきました。「ああ、なるほど。本当だ。合図いらない。合図がなくても合うわ」

若くしてコンサートマスターになって、みんなに「せーの」って合図するようなことを、かっこいいと思ってやっていた節があるのですが、今思うとすごくダサい。わざとらしい合図をすることで、そこで、音楽が止まったり遅れたりしてしまう。音楽は音楽のもつ自然な流れのほうが断然美しいのに、その流れを止めてどうするんだと思いました。

以来、今でも、それは僕の課題のひとつです。オーケストラでもユニットでも、それぞれの楽器が自然に自由に音楽を奏でて、それがピチッと合うのが理想です。

コンマスというのは、指揮者の思いを汲んで団員さんたちに伝える仕事ですが、だからといって団員さんたちを無理に束ねようとはしていません。リハなどで言葉で何かを伝えることも少ないです。音楽家同士は音楽で伝えることしかできない気がします。そういう意味では、コンマスも孤独で果てしない世界です。

ソロも独りだから孤独。もしかすると、オーケストラやソロの孤独を石田組で発散しているのかもしれません。石田組は毎回、短いリハの期間に活発に意見を言い合い、本番に向け音楽性をいかに高められるかの勝負です。

年に数回、数えるほどの「至高の瞬間」。

4月にミューザ川崎シンフォニーホールで石田組のコンサート(レッド・ツェッペリン〈天国への階段〉、レインボー〈スターゲイザー〉など)があったのですが、そのときも興奮しました。こんなコロナ禍の状況にも関わらず満員御礼。ステージを360度取り囲むヴィンヤード形式の客席に前も後ろもお客さんがいっぱいで、その景色がすごいのです。

レッド・ツェッペリン〈天国への階段〉

レインボー〈スターゲイザー〉

これだけたくさん本番をやっていて、それでも年に数回、本当に数えるほどしかないのですが、お客さんと一体になる至高の瞬間があります。僕もメンバーものびのびと自由に演奏ができて、お客さんも集中して、それが一体になって高まっていく空気感。「お、いいね、今日」みたいな、得も言われぬ喜びです。エクスタシーといってもいいかもしれません。

至高の瞬間、もちろん、毎回、そこに向けて仕向けていきます。例えば、弾く直前、咳払いもなくなって完全に無音、その完全な無音の緊張感を、さらに1秒、2秒、緊張感を引っ張って高めて、それから弾く。あえて間を取る。

それでも至高の瞬間は僕だけで作れるものではありません。メンバーもお客さんもみんなの集中が高まって、いろいろな条件が満たされたときはじめて訪れる瞬間です。この喜びを知ってしまうと、音楽はやめられない。

子どもの頃、大勢でワイワイやって、その中心にいるのが好きだった。年に数回体験できる至高の瞬間は、その究極かもしれない。音楽がメンバーとお客さんをひとつにして、その中心に僕がいる。

だから、孤独というより孤高(ここう)。より高みを目指し努力する生き方というほうが近い気がします。すべてのエネルギーをヴァイオリンの演奏に注ぎ込み、年に数回、至高の瞬間を迎える。このうえなく充実しています。

本日の私物拝見!

石田さん愛用のブレスレット

「体をリラックスさせ最高のパフォーマンスを引き出す」という〈ファイテン〉のブレスレットを愛用しています。つけたまま本番に臨むこともあります。

公演情報
三浦一馬キンテート 熱狂のタンゴ

日時:2021年10月7日(木)19:00開演
会場:iichikoグランシアタ
曲目:ピアソラ/92丁目通り、プレパレンセ(用意はいいか)、スール:愛への帰還、天使の死、ブエノスアイレスの夏、リベルタンゴ、デカリシモ、五重奏のためのコンチェルト、オブリヴィオン(忘却)、現実との3分間、タンガータ
出演:三浦一馬(バンドネオン)、石田泰尚(ヴァイオリン)、山田武彦(ピアノ)、髙橋洋太(コントラバス)、大坪純平(ギター)
料金:全席指定4,000円 U25割2,000円
詳しくはこちら

《死と乙女/天使と悪魔》YAMATO String Quartet

日時:2021年10月16日(土)13:30開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
曲目:シューベルト/弦楽四重奏曲第14番ニ短調D810「死と乙女」
ピアソラ/「天使の組曲」~天使のミロンガ/天使の死 ほか
ピアソラ/「悪魔の組曲」~悪魔のロマンス ほか
マイヤーズ/カヴァティーナ(映画「ディア・ハンター」より)
ピンク・フロイド/狂気
出演:石田泰尚(第1ヴァイオリン)、執行恒宏(第2ヴァイオリン)、榎戸崇浩(ヴィオラ)、阪田宏彰(チェロ)
料金:全席指定5,000円
詳しくはこちら

神奈川フィルハーモニー管弦楽団 第372回定期演奏会

日時:2021年10月23日(土)14:00開演
会場:ミューザ川崎シンフォニーホール
曲目:モーツァルト/交響曲第40番ト短調K.550
チャイコフスキー/交響曲第5番ホ短調Op.64
出演:小泉和裕(指揮)
料金:S席6,000円、A席4,500円、B席3,000円、ユース(25歳以下)1,000円
詳しくはこちら

神奈川フィルハーモニー管弦楽団 フューチャー・コンサート 鎌倉公演

日時:2021年10月24日(日)14:00開演

会場:鎌倉芸術館大ホール

曲目:モーツァルト/交響曲第40番ト短調K.550

チャイコフスキー/交響曲第5番ホ短調Op.64

出演:小泉和裕(指揮)

料金:S席5,000円、A席4,000円、B席3,000円、ユース(25歳以下)全席種半額

詳しくはこちら

石田泰尚
石田泰尚 ヴァイオリニスト

1973年、神奈川県川崎市生まれ。1995年、国立音楽大学を首席で卒業、新星日本交響楽団にアシスタントコンサートマスターとして入団し、1997年コンサートマスターに就...

取材・構成
能勢邦子
取材・構成
能勢邦子 コンテンツディレクター

「anan」元編集長。「Hanako」「POPEYE」元副編集長。2018年まで約30年間、マガジンハウスで雑誌や書籍の編集に携わり、話題作を次々に生み出す。担当した...

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