ヨーロッパでは、社交の一環として、サロン的なコンサートが日常に溶け込んでいると感じるという。「ホームパーティの機会がフランスでは圧倒的に多く、コンサートはその延長線にあるものなのです。気軽に自宅に招待し合う文化のおかげで、ホームコンサートの開催に対しても敷居が低いのでしょうね。個人のサロンでは、日本では見たことのないような年代物のピアノに戸惑うこともありますが、完璧な環境でなくても、人が集い、楽しい時間を共有することの方が大切なのだと思います」
室内楽を愛してやまないという江里さんだが、その理由は「奏者をつなぐ音の対話」だという。「それぞれの音楽を持ち寄って、言語を超えた対話を重ねながら、一つの世界を作り上げていく室内楽に、何にも代え難い魅力を感じます。また、音楽を通して医学とはまったく異なる世界の方々とつながっていることで、本業においても、限られた価値観に閉じ込められることなく、幅広い世界観を持ち続けることができるように思います。この二つの異なる世界と常に関わっていること自体が、自分という人間を作ることに寄与しているようにも感じます」
「フランスでは『数学に強くなる』『記憶力が発達する』などと考えて、子どもに音楽を習わせる親も多いのですが、ひじょうに違和感を感じます」というケリジットさん。
しかし、彼が専門とする数学と音楽の間には共通点もあると続けた。「3か月間毎日練習し、先日コンサートでショパンのノクターンOp.9-1 を弾きました。技術的に難しい曲ではありませんが、楽譜を読み込み、想像力を駆使し、作品と一体化したと思えるほどまで深く練習していると、突然に別の世界が見えるように感じるときがあります。
数学の証明問題においても、多くの人の予想に反して、必要なのは論理の先にある『想像力』なのです。論理を超えて、完全な精神世界に入り込んでいったところに別の景色が見えてくる。音楽との共通点はこの点にあるのです。
音楽作品を美しいと感じる理由は、構成が巧みだからとか、その曲に黄金比が潜んでいるからとかではありません。私に語りかけ、心を動かすからです。私にとってクラシック音楽は、人類の生み出したもっとも美しい創造物なのです」
ショパン:ノクターンOp.9-1
パリで30年以上継続している「パリ国際アマチュアピアノコンクール」は優勝者にオーケストラとの共演の機会を与えることでも知られるが、その他のコンクールも優勝者へのリサイタル、副賞や特別賞としてマスタークラスへの参加などを用意している
パリ国際アマチュアピアノコンクール(総裁:ジェラール・ベッケルマン)
イル・ド・フランス国際ピアノコンクール・アマチュア部門(総裁:アンヌ・ケフェレック)
ラ・ノート・セレスト国際ピアノコンクール・アマチュア部門(総裁:パーヴェル・ネルセシアン)
ディナール国際アマチュアピアノコンクール(総裁:クレール=マリ・ルゲ)