とはいえ、音楽とダンスは別々の芸術形態。その橋渡しにおいては、時にピアニストがコントロールできない事態も起こるそうです。
「以前、ハラルド・ランダー振付の《エチュード》という作品のリハーサルをしていた時のことです。全体練習のとき、バレエ団の稽古の責任者であるメートル・ド・バレエと、作品のためのコーチ、そしてたまたまオペラ座に立ち寄った元エトワールのダンサーが、その場にいました。
あるとき、メートル・ド・バレエがリハーサルを止めて、僕の伴奏が速すぎる、と言ったのですが、元エトワールは『遅すぎる』という。すると、作品のコーチはその二人に『いいえ、これがちょうどいいテンポだ』と言って……。思わず爆笑してしまいました(笑)」
現在、オペラ座で2月6日から3月10日まで行なわれる公演「ジョージ・バランシン」のリハーサルで、《バレエ・インペリアル》と《Who Cares ?》の2作品を伴奏しているディートランさん。音楽はチャイコフスキーの「ピアノ協奏曲第2番」と、ガーシュウィンによる17曲の歌曲(のオーケストラ編曲版)を弾いているそうです。「難しいけれど、演奏するのはとても楽しいよ!」と、ディートランさん自身もリハーサルを楽しんでいる様子です。
ダンスと音楽という2つの芸術形態を結ぶバレエ・ピアニストの仕事は、日本でも一般に広く知られているとは言えないのが実情。しかし、その魅力を深掘りしてみると、思わぬ発見があるかもしれません。
『バレエ伴奏者の歴史 19世紀パリ・オペラ座と現代、舞台裏で働く人々』
永井玉藻 著
定価 2420円
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美しき音楽に合わせ流麗に舞うバレエ・ダンサーたち――観る者を魅了する華やかな舞台からはその存在すら感じることはできないが、ダンスと音楽という別々の芸術形態を繋ぐ極めて重要な役割を果たしているのが、バレエ伴奏者である。
職業として確立しはじめた19世紀パリ・オペラ座のバレエ伴奏者たちの活動や役割などを明らかにしながら歴史を辿り、“陰の立役者”バレエ伴奏者に光を当てる。
世界最高峰のバレエ団パリ・オペラ座エトワールM.エイマンやバレエ・ピアニストM.ディートラン、ウィーン国立歌劇場専属ピアニスト滝澤志野、新国立劇場プリンシパル米沢唯、東京フィル・コンサートマスター近藤薫…等へのインタビューも実施。また、現在の育成事情についても紹介する。