『ブレードランナー』とヴァンゲリスを愛する映画ファンが、どれだけこの作品のサントラを欲していたか、これでわかっていただけるだろう。

公式サウンド・トラックは(再構成されたものではあるが)公開の12年後、1994年に発売された。

音楽こそ映画に入る最後のセリフ

そんなヴァンゲリスは、キャリアに関してあまり語っていない。その貴重な資料となるのは、『SONG TO SOUL One piece of the eternity – 永遠の一曲』の#69「炎のランナー/ヴァンゲリス」(BS-TBS放映)と、2013年のドキュメンタリー映画『ヴァンゲリス、そしてイタキへの旅』。この中で共通して語られているのは、彼自身が自分語りすることを極端に嫌っていたこと。それゆえに彼自身の肉声よりも、周辺人物の証言が主な構成となっている。

おもしろいのは『〜イタキへの旅』で、『ブレードランナー』と『1492 コロンブス』でヴァンゲリスとタッグを組んだリドリー・スコット監督が彼との制作現場について語っているくだりだ。監督とヴァンゲリスが『1492 コロンブス』の音楽をどうするか、ヴァンゲリスのスタジオで打ち合わせをしている最中、ヴァンゲリスはテレビに映し出された本編映像を観ながらサラッと音をつけてしまう。「これからどうしていくかだね」というヴァンゲリスに、「もうこれでできてるよ!」という監督。ヴァンゲリスが楽譜をおこさず、直感的に即興するアーティストなのは有名な話だが、ここまでの天才とは……と思わざるをえない貴重な瞬間だ。

映画『1492 コロンブス』のトレイラー