グァルネリウス編

大谷康子さん「弾き始めてから表現が多彩に、深くなった」~ピエトロ・グァルネリ(1708年製)

大谷康子:2023年にデビュー48周年を迎え、これまでにリサイタルはもとより、N響、モスクワ・フィル、スロヴァキア・フィル等、国内外の著名なオーケストラと多数共演。1公演で4曲のヴァイオリン・コンチェルトを1日2公演行なうという前代未聞の快挙を達成し話題となった。キーウ(キエフ)国立フィルには2017年以降毎年招聘されている。また、2019年5月に実力派ピアニスト、イタマール・ゴランと全国ツアーを開催し、好評を博す。CDはベストセラー「椿姫ファンタジー」や、ベルリンでの録音による「R.シュトラウス/ベートーヴェン・ソナタ№5(ピアノ: イタマール・ゴラン)」等、多数リリース。著書に「ヴァイオリニスト 今日も走る!」がある。BSテレ東「おんがく交差点」では司会・演奏を務める。文化庁「芸術祭大賞」受賞。東京音楽大学教授。東京藝術大学客員教授。 https://www.yasukoohtani.com 【公式YouTube】「大谷康子のやっこチャンネル」演奏動画続々公開中! 写真:©Masashige Ogata

探しだして1年半後、日本に入ってきたときに、これに一目惚れ!購入しました(両親に買ってもらいました。感謝!)。弾き始めてから自分でも驚くほどの変化があり、表現が多彩に、深くなったと感じました。

 

自分の望む表現を可能にしてくれる、この楽器によく出会ったなあと感謝しています。聴いてくださるお客様からも、この楽器は私にぴったり、音が好き!といつも言われます。

 

音色は、低音域は懐が深く、話をすべて受けとめてくれそうな男性の大人物。高音域は甘く、ベルベットの生地のような艶やかさ。ワインでいえばヴァイオリンと同じイタリアのバローロ。フランスでは超高級なロマネ・コンティ。愛称は《私の心の増幅器》となりました! 大切に可愛がっています。

一目ぼれで、即購入。明るく積極的な大谷さんらしいですね。音域を人間に例えるのもいいですね。大人の男性とおっしゃっていますが、頼もしい存在なのでしょう。大谷さんの弾くチャイコフスキーのコンチェルトでの、あの安定感と歌は楽器への信頼からきているのですね、きっと。

服部百音さん「楽器は自分の分身であり信頼できるパートナー」~ジュゼッペ・グァルネリ“デル・ジェス”(1738年製)

服部百音:1999年生まれ。5歳よりヴァイオリンを始め8歳でオーケストラと共演。10歳でヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクールで史上最年少第1位、2015年にボリス・ゴールドシュタイン国際コンクールでグランプリ受賞、以後様々な国際コンクールでグランプリを4回受賞。2011年よりイタリアでのリサイタルを皮切りに国内外で演奏活動を始める。ウラディミール・アシュケナージとスイス、イタリア公演。2020年にはフランツ・リストチェンバーオーケストラとドイツツアーを行う。国内の著名オーケストラ、指揮者と共演を重ね、2021年パーヴォ・ヤルヴィ指揮N響と共演。CD「ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲第1番、ワックスマン:カルメン幻想曲」は「レコード芸術」誌で特選盤等、高い評価を受けた。これまでに新日鉄住金音楽賞、アリオン桐朋音楽賞、ホテルオークラ音楽賞、出光音楽賞、ブルガリ アウローラ アワード他を受賞。現在、桐朋学園大学院に在籍中。https://www.mone-violin.com/

前にお借りしていたピエトロ・グァルネリを長期間入院させることになり、翌週サントリーホールでの演奏会で弾く楽器がなくなり、大至急で代替楽器が必要になりました。その時に日本ヴァイオリンの中澤社長にご相談したら、”海外へ行くはずだった“デル・ジェス”がコロナ禍で日本に留まっていて、たまたま1本あります。弾いてみますか?”と。

 

二つ返事で駆けつけ、奇跡的にこの“デル・ジェス”に出逢いました。音楽性の変化というより、楽器というのは自分の分身でもあり信頼できるパートナーのような感覚でいるので、手の感覚と楽器の振動の対話がうまくいっていないとその楽器の最高の音が出せません。

 

この楽器は、弾き始めて1年位は暴れ馬のような性格で、下手に出ても上から捻じ伏せてもダメ、向き合おうとしても中々細胞を開いてくれない感じがあり、思った音がすぐに出るまでに時間がかかりましたが、一度タッグが上手くいき始めた瞬間から物凄い勢いでスムーズに応えてくれるようになり、今は素晴らしき相棒です。

 

ロストロポーヴィチのように楽器を妻と呼べる関係性ではあるものの、楽器の名を呼ぶ機会がないせいか名前は付けていません。仮にヴァイオリンがロシア語で男性名詞だったら夫♡とか言うだろうか?と想像してみましたが、それもないかも(笑)。でも私の存在の8割です。

グァルネリと言えば、かのパガニーニが“イル・カノーネ”(大砲)を愛用したことでその名が知れわたりましたが、“デル・ジェス”もまた、優れた楽器として高い人気を誇っています。

“デル・ジェス”の名の由来は、父親が作った楽器ジュゼッペ・グァルネリ“フィリップス・アンドレア”と区別するためでした。ちなみに現存する“デル・ジェス”は世界で150ほど。稀少価値は高く、取引価格もストラディヴァリウスよりも高額になる場合があります。