——町田さんの『エデンの東』とオーケストラのコラボレーション素晴らしかったです。収録を終えていかがでしたか?
楽譜と音楽の関係や、既存の演技に演奏を合わせていくことの難しさについて、辻さんと小井土さんという素晴らしい音楽家の方のお話を聞くことができ、たいへん勉強になりました。また、競技者の頃は、音楽と濃密な関係を築かせていただいているにもかかわらず、演奏家の方や作曲家の方と交流することがなかったので、リアルで率直なお言葉を聞ける機会はとても貴重なことで、このような場に呼んでいただき感謝しています。
——音楽家とフィギュアスケーター、共通するところは?
両者ともに“時空間芸術”の表現者であることでしょうか。絵画や書道などの作品は、瞬間的ではなく常にそこに存在していますが、音楽や舞踊、フィギュアスケートというのは、一瞬一瞬消えてしまう、紡いだ瞬間に消えてしまう芸術です。その場で生み出すパフォーマンス力が必要ですし、時には状況把握力や臨機応変に対応する力など、さまざまな力を同時に発揮しなければなりません。そういう意味で、スケーターやダンサー、演奏家、ミュージシャンは、共通する部分があると考えています。
——先ほど、町田さんの『エデンの東』の映像と生演奏のコラボレーションで、結果を知っているにもかかわらず、こみあげてくるものがありました。
実は僕も手に汗握って見ていました、「(ジャンプ)降りろよー!」と思いながら(笑)。結果、ちゃんと降りるんですけど、それがわかっていてもいつ見ても緊張しますね。
——音楽のCDやレコードにもいえることですが、フィギュアスケートは時空間芸術でありながら“残る”作品でもある気がします。
そこがスポーツであると同時にアートでもあるのかな、と。これはフィギュアスケートの特性ですよね。スポーツは結果がわからない状態で見るから、ワクワクしたり、ドキドキしたりする。フィギュアスケートにもそのような側面はあるものの、結果がわかっている過去の演技を何度もくり返し堪能できるのは、スポーツ以外の要素があるからだと思います。
——最後に、グランプリシリーズの魅力とファイナルの見どころについて教えてください。
このインタビューをしていただいている段階ではまだ1戦も終わっていないのでお答えするのが難しいのですが(笑)、今朝まさにスケートアメリカの初日の解説を終えたという前提でお話しすると、初戦のショートからかなり熱いです。トップ・オブ・トップといえる選手たちは熾烈な戦いをしていますし、北京オリンピック後に世代交代があり、若手や中堅の選手たちがどんどん台頭してきています。特に若手はいろいろ失敗しているところはありますが、素晴らしさが煌めいています。そうやってしのぎを削った最後の6人が競い合うわけですから、グランプリファイナルは特別な一戦になることは間違いありません。それこそ、ファイナルに進出するためには、ただジャンプを跳んで成功するというだけではなくて、この『題名のない音楽会』のように、いかにフィギュアの技術を表現に昇華できるかというのが重要なポイントになります。それができるスケーターこそが、ファイナリストになれる。フィギュアスケートと音楽の濃密な関係性を堪能できる一戦になると思いますので、ぜひお見逃しなく!
――素晴らしい締めくくりのお言葉です。最後にと言いながら……最後に、ONTOMOの読者にも多いクラシック音楽ファンにもひと言お願いします!
先ほど収録の中で、羽生さんの《Otoñal》の演奏後に、小井土さんが羽生さんの動きから演奏がインスパイアされたというニュアンスのことをおっしゃっていました。私が言うのもおこがましいのかもしれませんが、本当に音楽表現を考え抜いたスケーターの演技というのは、音楽家の方にも、もしかしたら何らかのインスピレーションをお届けできる可能性があるのではないかと思いました。フィギュアスケーターと音楽家、相互にインスピレーションをもたらし合えるような関係を築けたら、それは本当に素晴らしいことです。ぜひ演奏家の方、クラシックファンの方にも今回の放送とグランプリファイナルをぜひご覧いただきたいと思います。
反田恭平さん・福間洸太朗さん・原田慶太楼さんと町田さんによる「音楽家×振付家」のスペシャル対談、町田さんによるフィギュアスケートの歴史、選曲・編曲、振付の徹底解説など、ここでしか読めない情報が満載。読めば読むほど見方が変わり、さらにフィギュアスケートが面白くなること間違いなし。
ONTOMO MOOK『さあ、氷上芸術の世界へ――フィギュアスケートと音楽』詳しくはこちらから