日本の情緒が空気に舞う「子供のためのリズム遊び」「ピアノ組曲」

――続いて松田さん、「子供のためのリズム遊び」と「ピアノ組曲」についてお話しいただけますか。

松田 ロシアの音楽学校では、音楽を聴きながら絵を描く、音楽とイメージを結びつける授業があったんです。「子供のためのリズム遊び」ではそんなふうに、急に風が吹くような気配を感じたり、想像力を使って聴いていただければと思います。

「ピアノ組曲」は管弦楽版の「日本組曲」を意識して、オーケストラの響きや祭りの雰囲気を再現することを目指しました。個人的には第2曲「七夕」がすごく好きです。日本の七夕の独特の雰囲気、短冊にお願いを書く儀式に込められた人々の思いも、空気の中に舞っているように感じるんです。

――5月26日の「伊福部昭総進撃〜キング伊福部まつりの夕べ~」のコンサートでも演奏されますね。

松田 コンサートでは初めてなので、お客様からエネルギーをいただくとどういう音楽になるのか、とても楽しみです。「子供のためのリズム遊び」は抜粋なのですが、音が少ない曲もあるので、「音の間」を大切にして弾きたいと思います。

松田 華音 Kanon Matsuda, Piano
6歳よりモスクワで学ぶ。ロシア最高峰の名門、グネーシン記念中等(高等)学校で学び、スクリャービン記念博物館より2011年度「スクリャービン奨学生」に選ばれ、外国人初の最優秀生徒賞を受賞し首席で卒業。モスクワ音楽院に日本人初となるロシア政府特別奨学生として入学、2019年6月首席で卒業。2021年モスクワ音楽院大学院修了。
これまでにミハイル・プレトニョフ、ワレリー・ゲルギエフ、アンドレア・バッティストーニ、ピエタリ・インキネン、秋山和慶、井上道義、円光寺雅彦、尾高忠明、小林研一郎、高関健、飯森範親各氏の指揮の下、ロシア・ナショナル管、マリインスキー歌劇場管、プラハ響、N響、読響等と共演。
2020年12月には井上道義氏指揮N響と伊福部昭「リトミカ・オスティナータ」を、2021年11月にはNHK音楽祭にて飯森範親氏指揮日本センチュリー響とシチェドリン「ピアノ協奏曲第1番」を演奏し、どちらも全国放送され、高く評価された。
最近は室内楽にも取り組むなど、活動の場を拡げている
ドイツ・グラモフォンより2枚のアルバムをリリース。2018年かがわ21世紀大賞受賞。
公式HP:https://www.japanarts.co.jp/artist/kanonmatsuda/

――広上さん、七夕の情緒など、現代日本ではどんどん薄れてきているだけに、音楽を通じてそれを想うことは大切かもしれませんね。

広上 今の日本は殺伐として、失ったものが大きすぎるだけに、一石を投じるアルバムになるんじゃないでしょうか。人間が生きていた証が音符の記号の中に入っていて、生きている演奏家が魂をそこへ吹き込むことによって、また生きる。

伊福部さんが今生きていれば110歳。その音楽を40代や20代の若者が弾いてくれる。伊福部さんも、本当に嬉しいと思いますよ。