カプースチンの曲を聴くと、いかにもジャズの即興演奏のように聞こえるフレーズがたくさん出てくるため、「これはクラシックではなく、ジャズ・ピアノだ!」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、2000年に行なわれた雑誌(International Piano Quarterly ※ロンドンで発行されていたピアノ雑誌)のためのインタビューで、「ジャズとクラシックでは、どちらの側面があなたにとって重要ですか?」と問われた際、カプースチンはこのように答えています。
The jazz style is there to give color – I don’t like jazz ‘forms’ – if you can describe them as that – which is why I’ve adopted those from classical music.’
(私にとってはクラシックの面が重要です。ジャズのスタイルはそこに“色彩”を添えるためにあります。私はジャズの“形式” ―もしそう表現することが可能ならですが― が好きではありません。だからこそ、クラシック音楽からそれを採用したのです)
つまり、カプースチンは純粋なジャズ作品を生み出していたわけではなく、あくまでクラシックの形式に“色彩”を添えるものとしてジャズの語法を活用していました。
テンション・ノートやジャズのスケール、リズムなどが織り交ぜられた鋭いフレーズも、決して即興演奏ではなく、カプースチンによって一つひとつの音が徹底的に選び抜かれた“この瞬間になくてはならない音”だったのです。
何度も推敲を重ねられ、磨き上げられた音の編み物。何度聴いても色褪せることのないカプースチンの素晴らしい作品群には、そんな背景がありました。
カプースチン:ピアノ・ソナタ 第1番 作品39《ソナタ・ファンタジア》 第1楽章
今回はカプースチンの生い立ちや作曲スタイルについて紹介しましたが、カプースチンの魅力はまだまだ語り尽くせません。カプースチンのことを最近知ったばかり! という方は、カプースチン本人による演奏動画や録音もたくさん残っているので、ぜひ聴いてみてくださいね。