本番前まで何度も運指を変えて最善を追求する姿

リサイタルのリハーサルも遠くから聴かせていただきました。本番数時間前にもかかわらず、何度も運指を変えながら最善を追求され、それを楽譜に書き込む姿は忘れられません。

プレスラーさんにお送りした誕生日メッセージのお返事には、「私も歳をとりました。今まで以上に多くの時間を練習に割かなければなりません」と書かれていました。

また、インタビュー時の写真撮影では笑みを浮かべながら「このまま笑ってなくちゃいけないのかな? レッスンや音楽するときには、笑ってばかりじゃなくて、真剣な顔もしなくちゃいけないんだよ」と仰っていました。

そういえば、「90歳になるまで私は歌曲の伴奏をする機会がほとんどなかったけど、これからはどんどんしたいね」と語っておられたのを聞いて、その飽くなき探究心に驚かされました(これはパリで開催されたプレスラーの90歳記念コンサートでの、クリストフ・プレガルディエンとの共演のことと思われます)。

愛を信じ、あらゆる人と音楽を大きな愛で包み込み、また音楽に対しては絶対に妥協せず真剣な眼差しで対峙され、そしていくつになっても新しいことにチャレンジされている。私はプレスラーさんに、そんなイメージをずっと持ち続けていました。

プレスラーさんの訃報を受けた日の大学の授業で、学生たちと一緒にプレスラーさんが残された演奏を聴きました。ある学生が「先生、なぜだかわからないけど、聴いていて涙がでました」と静かに伝えてくれました。

最初の問いかけへの私からのこたえです。プレスラーさんの音と音楽は、これからもずっと私たちの心に残り、そして生きる喜びと希望を与えてくれると信じています。

メナヘム・プレスラーのピアノ・レッスン
音楽界の至宝が語る、芸術的な演奏へのヒント

ウィリアム・ブラウン 著/瀧川淳 訳

クラシック界の至宝、巨匠メナヘム・プレスラーの芸術的ピアノ演奏の神髄を伝える1冊。
2部構成からなり、「Part Ⅰ」では半生や演奏論、練習方法(自作練習譜付き)などについてまとめられているが、圧巻は「Part Ⅱ」。マスタークラスやレッスンで扱った23曲について、彼が発したコメントやアドヴァイスを小節ごとに細かくまとめて紹介。永久保存版です!

瀧川淳
瀧川淳 翻訳者・国立音楽大学准教授・音楽教育学者

『メナヘム・プレスラーのピアノ・レッスン』(ウィリアム・ブラウン著)訳者。 音楽教育学者。音楽授業やレッスンで教師が見せるワザの解明を研究のテーマにしている。東京芸術...