『ブルータリスト』〜エイドリアン・ブロディの入魂の演技と独創的な実験音楽

いわゆる「音楽映画」ではないけれど、今年のアカデミー賞の本命の1本と評判の『ブルータリスト』は、独創的な映画音楽を聴きたい人におすすめしたい作品だ。第一次世界大戦後、ホロコーストを逃れて渡米した建築家ラースローは、家族の早期アメリカ移住と引き換えに、巨大な礼拝堂の建築を請け負う。だが、ラースローが希望を抱いたアメリカンドリームの裏には大きな困難と代償が待ち受けていた……

あるユダヤ人建築家の数奇な運命をドラマティックに描いた本作。特筆すべきはラースローを演じるエイドリアン・ブロディ(『戦場のピアニスト』)の入魂の演技で、彼の家族や建築にかける激しい情熱は、劇中で彼が設計する「ブルータリズム」建築(材料や構造をむき出しにしたような様式の建築)そのものの荒々しさで心を揺さぶる。ほかにも注目は、英国出身のダニエル・ブルンバーグによる独創的で実験的な音楽だろう。なかでも「序曲」と名付けられた約10分間にわたるオープニング音楽は、逆さになった「自由の女神」の斬新な映像と共にラースローの壮大で波乱に満ちた人生を予感させる。(2025年2月21日より公開)

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NAOMI YUMIYAMA
NAOMI YUMIYAMA ライター、コラムニスト

大学卒業後、フランス留学を経て、『ELLE JAPAN(エル・ジャパン)』編集部に入社。映画をメインに、カルチャー記事担当デスクとして勤務した後、2020年フリーに。...