人生を変えたミュージカルと 歌うときに大切にしていること

——次に、ミュージカルのお話をうかがいます。咲妃さんの「人生を変えたミュージカル」は?

咲妃 思い入れのある作品はたくさんありますが、私が“何も怖くなくなったミュージカル作品”は4年前に出演した『衛生』(2021年)です。この作品は、自分の中のあらゆる固定観念を「ドカーン!」とくずしてくれました(笑)。

演出の福原充則さんは、ミュージカルという演技手法を上手に利用して、今の時代、なかなか声を大にして言えない主張や疑問を、見事に投げかける方。過激すぎるセリフや役の行動に、最初はかなり衝撃を受けましたが、あるとき、身の回りにあるものを自分の「ものさし」だけで見てしまっていたんだと気づいたんです。違う角度から目を向けることで、思考の幅が広がるのだと教えてもらえた作品です。

——宝塚歌劇団を卒業されて7年、「歌」についてお気持ちの変化は?

咲妃 昔の私は歌えるだけで幸せで、自分の「心」を楽曲に注ぎ込んで歌うことが何よりも大切だと思っていました。けれど経験を重ねて、今はロジカルに楽曲をとらえる重要さも感じています。

舌の位置が少し変わるだけで声の響き方が変わってきます。また、声帯と心理状態は直結しているので、そのときのコンディションに左右されずに冷静に楽曲と向き合う心の強さも大切だと思います。それを痛感した作品は、2021年に出演したブロードウェイ・ミュージカル『ニュージーズ』です。難曲が多かったので、当時、かなり特訓しました。

——今後も、『グラウンドホッグ・デー』や『ケイン&アベル』などのミュージカルにご出演される一方で、先日はドラマ『不適切にもほどがある!』で歌やダンスを披露されていました。多彩な挑戦を続ける咲妃さんのパワーの原動力は?

咲妃 自分が自分に飽きたくなという気持ちでしょうか。33年間生きてきて、いろいろな経験をしました。そのすべてがあっての今の私だと感じています。一度きりの人生、一つでも新しい経験が増えていくといいなという思いが、仕事にも繋がっているのだと思いますね。

——最後に、『空中ブランコのりのキキ』を観劇する方に一言お願いします。

咲妃 まずはこの作品に出会ってみてほしいです。ポスタービジュアルを超える景色が広がっていますし、楽曲も面白く、楽しいサーカスパフォーマンスもあります。そしてなにより、別役実さんの世界で生きる登場人物は誰もが愛おしいので、彼らの生きざまに触れていただけたら嬉しいです。

Ⓒ磯部昭子
公演情報
せたがやアートファーム2024 音楽劇『空中ブランコのりのキキ』

日時: 2024年8月6日(火)~ 2024年8月18日(日)

会場: 世田谷パブリックシアター

原作: 別役実 (童話「空中ブランコのりのキキ」「山猫理髪店」「丘の上の人殺しの家」より)

構成・演出: 野上絹代

音楽: オオルタイチ

脚本: 北川陽子

サーカス演出監修: 目黒陽介

出演: 咲妃みゆ、松岡広大/玉置孝匡、永島敬三、田中美希恵/谷本充弘、馬場亮成、山下麗奈/瀬奈じゅん

サーカスアーティスト 吉田亜希、サカトモコ、長谷川愛実、吉川健斗、目黒宏次郎

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取材・文
NAOMI YUMIYAMA
取材・文
NAOMI YUMIYAMA ライター、コラムニスト

大学卒業後、フランス留学を経て、『ELLE JAPAN(エル・ジャパン)』編集部に入社。 映画をメインに、カルチャー記事担当デスクとして勤務した後、2020年フリーに...