ライブ映像やYouTube配信で、今までにないターゲットにも届けたい 日本センチュリー交響楽団

3/28 豊中名曲シリーズVol.13 無観客コンサートの様子。
©️s.yamamoto

「不思議な感覚」から熱演へ

一方、日本センチュリー交響楽団は、3月12日にザ・シンフォニーホールで行う予定だった「第243回定期演奏会」をやむを得ず中止。楽団長の望月正樹さんは、「今後の方針を探る中、すでにライブ配信を実施していた東京交響楽団を見て、そういう手もあるのかと思いました」と話す。

その後、3月28日に豊中市立文化芸術センターで実施予定だった「センチュリー豊中名曲シリーズVol.13」の無観客上演でのライブ配信を決定した。

実際に行なってみたところ、望月さんは「上手くいきました」と語る。その成功ポイントは主に2つ。

一つは、「演奏家ならではの音楽家魂」。無観客上演が初めての彼らにとって、ホールに聴衆がいない、客席にいるのは関係者のみ、というのは特殊な状況だったため、楽団員は皆「とても不思議な感覚」を覚えたという。「どこに向かって演奏すれば良いのか」と戸惑いすらみせた。

「結果的には熱演でした。戸惑いながらも、『自分たちの演奏を届けたい』という思いに変わりはないため、その気持ちは保っていた。そして音楽が進むにつれて集中力は増してきて、まさに『演奏家魂』が体現された瞬間だったと思います」

そしてもう一つ、大きなポイントとなったのは、さまざまな企業による協力だった。

配信を行なった「ニコニコ動画」の運営を行なう株式会社ドワンゴ、そして映像撮影には地元企業、そして音声を担当したオクタヴィア・レコードによる協力が得られたことは、「とても幸運なことだった」という。

「さまざまな条件がある中で、各方面からOKサインをいただけるかどうかは、実現の鍵になります。うまく折り合いがつかず、配信実施がかなわないことも有り得る話ですから」

実施の結果、12,000人が映像を視聴。また財政的な支援の呼びかけに応えるファンも増え、「今後への訴求につながったと感じる」と望月さんは話す。

観客のコメントが配信を盛り上げる、ニコニコ動画でのライブ配信の様子。コメントを非表示にすることも可能。
当日は出演予定の指揮者が来日できず、首席指揮者の飯森範親が急遽駆けつけた。

映像配信を用いて、新たなターゲットへ

しかしこの配信はあくまでも「無料」。このまま厳しい状況が続くことは、いずれ楽団の解散につながりかねない。その一方で、新型コロナウイルスとの戦いは長期戦も予想されている。

「正直、厳しい状況であることは変わりありません。大きな収入源となる依頼公演も減っていますし、どれだけこの時期が続くのか…」

 

そんな中でも検討を進めているのが、動画による有料コンテンツの配信。

「ターゲットは『オーケストラ・ビギナー』です。ライブ配信の際にも、普段演奏会にこないようなこの層の方達に視聴していただいた、という印象があります」

すでに楽団員は、YouTubeで動画のアップロードを積極的に行なっている。クラシックの作品はもちろん、シーズンに合わせた『旅立ちの日に』や森山直太朗の『さくら』など、短い時間で収められ気軽に視聴することができる。

動画内で、コンサートミストレスの松浦奈々は、現状の楽団員の想いをこのように訴えかけている。

「最近のコロナウイルスの影響により、我々は演奏する場所を失いつつあります。そんな中で私たちにできることは演奏すること、それをみなさまに聴いていただくことです。

日頃応援してくださっているみなさま、そしてこれをご覧になっているみなさまの心を少しでも豊にするために、今後少しずつ動画を配信していきますので、チャンネル登録と、日本センチュリー交響楽団へのご支援をよろしくお願いします」

※以下の動画は3月12日に収録したものです

それでもやっぱり、音楽は「生」が一番

動画配信に新たな軸を据えようとしている日本センチュリー交響楽団。大阪フィルと同じく、「やっぱり音楽は生が一番」と望月さん。

「たくさん動画を配信していくことに関して、まったく否定はしませんし、よい取り組みとして続けていくつもりです。でも、それはやっぱり『生』の演奏会があってこそ、なんです。今後の楽団のPRに効果があるよう、使っていきたいです」

望月さんは日本センチュリー交響楽団のよさを「編成がコンパクトだからこそ、音の精度が高く、透明感もある。すっきりとしたサウンドが特徴」とし、「それは今の配信技術でも伝わると思う」と付け加える。

「何より大事なのは、この事態が収まったときに『待ってました!』と言っていただくこと。今はどこの楽団も厳しい状態が続いています。だからこそ横のつながりを大切に手を取り合いたい。そして、いつか人々が元気になるために、『いざオーケストラが必要だ』と言っていただけるよう、存在感を発揮していきたいです」

桒田萌
桒田萌 音楽ライター

1997年大阪生まれの編集者/ライター。夕陽丘高校音楽科ピアノ専攻、京都市立芸術大学音楽学専攻を卒業。在学中にクラシック音楽ジャンルで取材・執筆を開始。現在は企業オウ...