そしてもう一本のドキュメンタリー、『ジョン・レノン~音楽で世界を変えた男の真実~』(原題はLooking For Lennon)がジョンの命日である12月8日に公開されます。こちらはジョンの幼少期にスポットを当てた作品で、リヴァプールの学校の仲間などが子どもの頃のジョンがどんな人物だったかをストレイトに語ります。

父親が不在で、母親が別の男と暮らしていたためにジョンがミミおばさんに育てられたのはよく知られた話ですが、家庭の事情はもう少し複雑で、それがジョンの性格にどんな影響を及ぼしていったか、話を聞いているうちに立体的なイメージが湧いてきます。今や半ば神格化されている節があるジョン・レノンは所詮人の子であり、その姿もまた魅力的です。

初めて知ることが多く読み始めるとやめられないビートルズの新刊

ビートルズに関する本は山ほど書かれています。興味があってもそのごく一部しか読むことができないのが実情です。少し前に日本語訳が出版されたクレイグ・ブラウン著『ワン、ツー、スルー、フォー:ビートルズの時代』は、ブラウン氏が数々のビートルズ関連書籍をはじめ、それ以外にもビートルズに触れるさまざまな資料をまとめた一種のコラム集です。

クレイグ・ブラウン著/木下哲夫訳『ワン、ツー、スルー、フォー:ビートルズの時代』(白水社刊)

有名な話もあります。ビートルズがニューヨークで初めてボブ・ディランに会った時のこと、エルヴィス・プレスリーとの白けた街道などについてすでに読んだことがある方が多いかと思いますが、ぼくは初めて知ることが多く、読み始めるとやめられないほどクレイグ・ブラウンの文章は面白いです。

ビートルズ自身の話の他にスタッフのこと、ファンのこと、他の歌手のこと、間接的に関連することも非常に面白く、終始客観的かつウィットを持って書かれています。全部で700ページ以上あり、定価8000円にたじろぐ人もいるようですが、年末も近いし、音楽好きな方なら自分へのクリスマス・プレゼント(あるいは「何がいい?」と訊かれたら)としてためらうことなくお薦めできる本です。

歴史は教科書では面白くない、というのがぼくの経験でした。学校でいつも成績が悪かったし、大人になってから歴史のことを物語として接すると、いちばん心に残るものだと思います。何だかんだ言っていまだビートルズの話にこれだけ引き込まれるは年をとった証拠かもしれませんが、普遍的なものを感じます。

ピーター・バラカン
ピーター・バラカン ブロードキャスター

ロン ドン大学卒業後来日、日本の音楽系出版社やYMOのマネッジメントを経て音楽系のキャスターとなる。以後テレビやFMで活躍中。また多くの書籍の執筆や、音楽イヘ...