――実際に今使うのは?
山本 有意義だと思います。原著には解答が付いていなくて、付けようかという案もありましたが、日本の和声の規則と異なる点もあり、なかなか難しいです。
森垣 注や原注も面白くて、教えた先生だけに分かる面白さが凄くあります。本文からも、チャイコフスキーの心の声が大いに聞こえてきます。副読本として用いても、とても面白いと思います。
チャイコフスキーのモスクワ音楽院での1日を書いた読み物があり(※15)――すべてが真実なのかどうかはわかりませんが――職人的に自分を律していた人だったようで、厳格に教えたようです。
※15 「チャイコフスキー」クーニン著、P79~84(新読書社、2002)
「チャイコフスキー伝・上巻」小松祐子著、P106~108、183~184、363~366(文芸社、2017)等
後年のチャイコフスキーによる作曲レッスンの内容については、
「文学遺産と同時代人の回想・チャイコフスキー」サハロワ編、P287~296(群像社、1991)等
山本 先生としても大変厳しく、4や5をなかなかつけてくれなかったそうです。ロシアではふつう4以上は付く感じで、3は大ごとで、2はショックで立ち上がれないくらい。タネーエフでさえ、和声の授業では5を取ることはできませんでした。
森垣 学生を泣かせたこともあるそうですよ。チャイコフスキーの授業の時間が来ると胃が痛くなるとか。でも、あのチャイコフスキーに教われるのですから、喜びもあったのではと思いますが。
――貴重なお話をありがとうございました。