構成・演出の菅野こうめいにインタビュー!

終演後、構成・演出を手がける菅野こうめいさんに追加取材を行ないました。以下、インタビュー形式で紹介します。

——本公演のコンセプトについてお聞かせください。

菅野 タイトル通り、ブロードウェイのロックのミュージカルを滑るというものです。昨年から“ミュージカルとフィギュアスケートの融合”というものに挑戦してきて、思っていた以上に合うという手ごたえはあったものの、少し物足りなさも感じていました。

1年間彼らを見てきて、ただ美しく流れるようにキレイな演技ではなく、もっと彼らの中から心の叫びのような、エモーショナルな部分を引き出せないかという思いが強くなり、ロックならそれが可能になるのではないかと。彼らの滑りを見て、今はロックを選んでよかったと思っています。

——ミュージカルや演劇と異なるアイスショーの面白さ、難しさは?

菅野 フィギュアスケートの面白さはなんといってもスピード。僕はフィギュアスケートを踊りのひとつのジャンルだと捉えていまして、あのスピード感は舞台上では絶対に出せないものです。例えば、舞台の端から端まで移動するのに、音楽で8小節かかったとすると、スケートはたった2拍で移動できてしまう。そこにスケートでしかできない表現があると考えています。

ただ、スピードを出して滑るからこそ、止まる瞬間に生まれる表現もあるのではないかとも思っていて。動きを止めた瞬間——そこに感情の高まりのようなものが生まれる感じがするのです。なので、“滑る”と“止まる”というコントラストを上手くデザインして表現をつくりたいのですが……そこが難しい。みんな滑ることに慣れていて、なかなか止まれないんですよ(笑)。

実は僕もスケートを習い始めまして、ある程度滑れるようになり、今まさに止まる練習をしているのですが、これが難しい(笑)。また、長年競技をやってきた人たちは“止まると得点が伸びない”という意識があるからか、止まることに抵抗があったようですが、最近はなくなりましたね。

あと、エモーショナルな部分がまだ足りないと思うので、PIWでは、できるだけその登場人物、その物語のエモーショナルな部分に共感しながら滑れるように、あえて和訳の歌にしています。

——本公演で大切にされたことは?

菅野 ショーをつくるにあたり、一番考えなければいけないのは、観客の心理をどのように動かすかということ。もちろん全体のストーリーも考えますが、お客さまの気持ちがどのように動いて、心を揺さぶられて、そして快感を得るのか。そこがエンターテインメントの、ショーの役目だと思いますし、大切にしている部分。それがあって初めて、曲調の並びをデザインしていけると思うので。

©Keiko Suzuki

——菅野さんはクラシック音楽がお好きだそうですね。

菅野 大好きです。クラシックだけでミュージカルを作ったこともあります。『船に乗れ!』という音楽学校を題材にした小説をミュージカル化したときは、クラシックをひたすら並べ、そこに歌詞をつけて、山崎育三郎さんに主演していただきました。勝手にクラシックのメロディに歌詞をつけて、昔の偉大な作曲家たちに怒られそうですが(笑)、それぐらいクラシックが好きですね。

——クラシックを使ったアイスショーを手がけるご予定は?

菅野 予定はないのですが、いつかつくってみたいですね。先日荒川静香さんと話していたのですが、以前イタリアで「オペラ・オン・アイス」というアイスショーがありまして、ああいうのをやってみたいね、と。

そのアイスショーは、野外のコロセウムにリンクを作り、そこにフルオーケストラを乗せて、オペラ歌手を招いて生歌唱を披露して……その中で荒川さんが『マダム・バタフライ』を滑ると。すごくないですか⁉ もし実現させるなら、オペラをよく知らないスケートファンの方にも親しんでいただけるように、オペラをポップにアレンジするのもよいのではないかと考えています。もちろん、オペラ・ファンの方に怒られない程度に(笑)。いつか日本でもそんなアイスショーをやれたらいいですよね。

鈴木啓子
鈴木啓子 編集者・ライター

大学卒業後、(株)ベネッセコーポレーションに入社。その後、女性誌、航空専門誌、クラシック・バレエ専門誌などの編集者を経て、フリーに。現在は、音楽、舞踊、フィギュアスケ...