金子 薫さんに聞きたいのですが、オーケストラピットにいてダンサーと合わせて演奏するとき、自分がやりたいように演奏できないことがあるのでは、と思うんです。

山田 バレエのために書かれた音楽の場合は、そういうことはほとんどないです。新作で、例えばシューベルトの交響曲を使うとなって、(実際の指示とは)まったく違うテンポで弾かないといけない、という時に、指揮者と振付家が喧嘩になって(笑)。

金子 揉めることがありますよね(笑)。

山田 でも最近の新作、それこそ《プリマ》のような作品は、振付家の方も音楽を知っていて、その音楽が好きだから作品に選ぶ、という流れが多いのかなと思います。そういうときはあまりテンポの違いがないです。

金子 私たちはいつも生演奏の音楽で共演できるのですが、極めて微妙な速さの違いでも、踊る側にとってはまったく違う、ということがあります。ダンサーによっては、指揮者に細かく速度の指示をする人もいますが、私は指揮者がどのようなスピードを持ってくるか、遊ぶような感覚で音楽と一緒に踊ることが好きなんですね。生演奏ではそれができるので、とても有難いなと思います。

——音楽と踊りがライブで上演される点ならではの楽しみですね。

山田 私は子どもの時からバレエが大好きで、ロイヤル・オペラ・ハウスの仕事はもうドリーム・ジョブなんですよ。オーケストラの私たちからも、もっとバレエダンサーを見たいですよね。座席の配置上、私は少し見られますけど、ほとんどのオーケストラのメンバーは見られない。ダンサーの動きを見られれば、もっとインスパイアされて演奏も変わるのでは、といつも思っているんです。ダンサーの皆さんは、私のインスピレーションです。

金子 そう言っていただけると嬉しいです。私たちは私たちで、音楽がインスピレーションなので。

山田 オーケストラとダンサーは普段のスケジュールがまったく違うんですよね。ロイヤル・バレエには日本人の方が多くいらっしゃるので、そのご縁でお話しするダンサーたちはいますけれども、オーケストラの中にも、もっとダンサーのことを知りたいっていう人たちが沢山いるんです。

金子 私もお話ししたいことがもっとあります! またこのような機会が沢山あれば嬉しいですね。

ロイヤル・オペラ・ハウスのピットの中で

——最後に、8月のガラ公演「The Artists」の注目ポイントを教えてください。

金子 私たちはロイヤルならではの作品や、ロイヤルのダンサーで仕上げた新作を披露しますし、アメリカからは素晴らしいダンサーさんたちがいらっしゃるので、異なる国の雰囲気を味わっていただけたらと思います。私にとってもたくさんのインスピレーションがある、素晴らしいガラになると思います。

山田 ダンサーさんたちと一緒に一つの作品を作り上げるのは初めてなのですが、生演奏ならではの呼吸の感じ取り方を聴いていただきたいなと思います。また、シベリウスの楽曲も知られていない作品ばかりなので、そこもお聴きいただけたら。バレエが主役なので、踊りの魅力をさらに高めるような演奏ができたらいいなと思っています。

The Artists - バレエの輝き-
公演情報
The Artists - バレエの輝き-

日時:
8月11日(金・祝) 18時 Program 1 & 4
8月12日(土)13時 Program 3 & 1
8月12日(土) 18時 Program 2 & 4
8月13日(日)13時 Program 3 & 2

 

会場: 文京シビックホール 大ホール

 

プログラム

 

Program 1
The Masters
「葉は色あせて」より 振付:チューダー
出演:キャサリン・ハーリン、アラン・ベル

「カルーセル」より 振付:マクミラン
出演:マヤラ・マグリ、マシュー・ボール

「薔薇の精」より 振付:フォーキン
出演:ウィリアム・ブレイスウェル

「Who Cares?」より 振付:バランシン
出演:タイラー・ペック、ローマン・メヒア

「7つのソナタ」より 振付:ラトマンスキー
出演:山田ことみ、五十嵐大地

「シンデレラ」より 振付:アシュトン
出演:金子扶生、ワディム・ムンタギロフ

「眠れる森の美女」よりローズ・アダジオ 振付:プティパ
出演:マリアネラ・ヌニェス、ウィリアム・ブレイスウェル、マシュー・ボール、アラン・ベル、ローマン・メヒア

 

Program 2
The Classics

「海賊」より 振付:プティパ
出演:山田ことみ、五十嵐大地

「ドン・キホーテ」より 振付:プティパ
出演:キャサリン・ハーリン、アラン・ベル

「ダイアナとアクティオン」 振付:ワガノワ
出演:マヤラ・マグリ、マシュー・ボール

「コッペリア」より 振付:マーラー(サン=レオンに基づく)
出演:金子扶生、ワディム・ムンタギロフ

「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」 振付:バランシン
出演:タイラー・ペック、ローマン・メヒア

「グラン・パ・クラシック」 振付:グゾフスキー
出演:マリアネラ・ヌニェス、ウィリアム・ブレイスウェル

 

Program 3
The Routine 

出演:全員
演奏:蛭崎あゆみ (ピアノ)

 

 

Program 4
The Future

タイラー・ペック振付作品(世界初演)

出演:タイラー・ ペック、キャサリン・ハーリン、山田ことみ、アラン・ベル、ローマン・メヒア、五十嵐大地
演奏: 滑川真希(ピアノ)

ベンジャミン・エラ振付作品(世界初演)
出演:マリアネラ・ヌニェス、マヤラ・マグリ、金子扶生、ワディム・ムンタギロフ、マシュー・ボール、ウィリアム・ブレイスウェル
演奏:山田薫(ヴァイオリン)、松尾久美(ピアノ)

※ Program1・2では、録音音源を使用。
※出演者・上演内容は変更になる場合があります。

 

 

芸術監督: 小林ひかる

 

※出演者は2023年4月24日時点止むを得ない事情により変更となる場合があります。

永井玉藻
永井玉藻

桐朋学園大学卒業。慶應義塾大学大学院を経て、パリ第4大学博士課程修了。博士(音楽学)。専門は西洋音楽史(特に19~20世紀のフランス音楽)。現在、慶應義塾大学、白百合...