都節音階という箏、三味線、尺八による江戸時代に成立した近世邦楽に多い音階で構成された適度な反復を含む簡潔で覚えやすい旋律は、独特の日本らしさ、えもいわれぬ美しさ、しなやかさを感じさせる。そこに外国の人々は異国情緒を感じ、日本人は懐かしさ、あたたかさを感じるのではないか。これも人々の心を惹きつける要因かもしれない。
もちろん山田耕筰はじめ多くの日本人作曲家も、「さくら」をもとにさまざまな作品を創作している。成田為三、矢代秋雄、中田喜直、近年では武満徹、三枝成章、柴田南雄、細川俊夫など実に多い。また、邦楽界でも宮城道雄作曲の箏2部と十七弦(宮城開発の低音箏)による《さくら変奏曲》(1923)はじめ多くの作品が生み出された。
宮城道雄《さくら変奏曲》(1923)
これら創作曲に変奏曲形式が多いのも一つの特徴といえよう。それも、よく「主題と変奏」と題される「区分的変奏曲」である。この手の変奏曲の主題としては、覚えやすく単純明快な構造で、それ自体で完結したものが適しているわけだが、「さくらさくら」は、まさにこの条件にぴったりである。このあたりも創作意欲をかき立てるポイントだったのではないだろうか。
「さくらさくら」関連曲プレイリスト