現実を超えた世界を見せてくれる音楽が社会には必要

——オランダ・バッハ協会の音楽監督の任期は間もなく終わると伺っています。

佐藤 そうです。ちょうどコロナ禍の時期と重なっていましたので、配信なども含めて様々なアイディアにチャレンジできた期間でした。しかし、時間も取られる仕事でしたので、今後はよりいっそう、自分の演奏に集中していきたいと思っています。コンチェルト・ケルンではケント・ナガノ指揮によるワーグナー《指環》ツィクルスの演奏会も予定されていますし、室内楽にもまた積極的に取り組んでいきたいですね。

――最後に、モダン楽器/ピリオド楽器、器楽奏者/指揮者といった境界線を軽やかに越えて活躍される佐藤さんが、音楽家として生きる上で大切にしているポリシーは?

佐藤  そもそも音楽をなんでやっているのかと考えることがよくあります。とくにパンデミックのときには音楽が現実社会において無力だと感じることがありました。でも音楽って現実では経験できない世界や感情を見せてくれるものじゃないですか。それって今のこの困難な時代にはより大切なものなのではないか。パンデミックは音楽を社会的な目で見る機会になったと思います。それを忘れたくないですね。

それから、演奏の場に携わる人たちへの感謝や演奏者への尊敬。だって1音をきれいに弾くだけでも本当に大変なことじゃないですか。それを思いながら音楽や音楽家たちの前に立って音楽を作っていく。すると、その瞬間ごとにベストを尽くそうという気持ちが生まれていくと信じています。

——ありがとうございました。

公演情報

日時:2023年03月18日(土)18:00 開演

会場:サントリーホール

出演:佐藤俊介(指揮&ヴァイオリン)

曲目:シュポア「ヴァイオリン協奏曲 第8番 イ短調 《劇唱の形式で》op.47」、ベートーヴェン「交響曲 第1番 ハ長調 op.21」、メンデルスゾーン「弦楽のための交響曲 第8番 ニ長調(管弦楽版)」

チケット:S7,000円、A6,000円、B5,000円、C4,000円、P2,500円

問合せ:TOKYO SYMPHONYチケットセンター 044-520-1511

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片桐卓也
片桐卓也 音楽ライター

1956年福島県福島市生まれ。早稲田大学卒業。在学中からフリーランスの編集者&ライターとして仕事を始める。1990年頃からクラシック音楽の取材に関わり、以後「音楽の友...