アデス作品での共演が忘れられない成田達輝 今回の《アリア》でもピュアな音楽性に期待

沼尻トーマス・アデスさんが国際的に注目を集めるきっかけとなった、サイモン・ラトルのベルリン・フィルハーモニー管弦楽団芸術監督就任披露公演での《アサイラ》を、私は現地で聴いていて、リハーサルも見学しました。その後も『コンポージアム』(東京オペラシティの同時代音楽を中心とするフェスティバル)で彼の代役を務めたり、なにかと縁の深い作曲家です」。

©Marco Borggreve
トーマス・アデス(1971~ )

ロンドン出身。ケンブリッジ大学で学ぶ(1989~92)。管弦楽曲『アサイラ』(97)でロイヤル・フィルハーモニー協会賞、2000年には史上最年少でグロマイヤー作曲賞を受賞するなど、短期間で国際的名声を確立。指揮者、ピアニストとしても活躍する。スキャンダラスな題材にもとづく室内オペラ『顔に白粉を』(1995)も成功し、その後創作された2つのオペラ『テンペスト』(2003)、『皆殺しの天使』(15~16)も再演が重ねられるなど、現代もっとも人気のあるオペラ作曲家のひとりでありながら、あらゆる形態の作品を発表している。ポピュラー音楽を含む多様なジャンル、時代の音楽を参照するその作品は、一作ごとに異なる様相をみせるが、室内アンサンブルのための『生きた玩具』(1993)などの初期作品にみられる皮肉っぽさや諧謔味は、後の『ピアノ協奏曲』(2018)やヴァイオリンと管弦楽のための『おとぎ話の踊り』(20)にも現れている。またシュルレアリスト的とも評される夢幻的な響きは、近年では管弦楽曲『ポラリス』(10)、『夜明け』(20)、ヴァイオリンと管弦楽のための『アリア(エア)』(21~22)において、線的で緻密なテクスチュアのなかで実現されている。[平野貴俊]

沼尻「今回演奏するアデスさんの《アリア》は、『シベリウスへのオマージュ』という副題からもわかるように、透明度の高い作品で、誤解を恐れずに言えば、東山魁夷の絵のような音楽ではないかと思っています。やはりアデスさんが住むイギリスは、フィンランドと同じく、北海道より北にある国なんだなとも感じます。

ソリストを務めてくださる成田達輝さんは、2021年にご一緒した東京オペラシティの「トーマス・アデスの音楽」における『ヴァイオリン協奏曲《同心軌道》』の名演が忘れられません。とても難しい作品でしたが、どんなに複雑なパッセージでも、成田さんが弾くと音楽として心にすっと入ってきました。彼の演奏はどこまでも感性豊かで、こうやって現代の作品を弾ける人がいるのかと驚いたのを覚えています。共演した東京フィルのメンバーも、成田さんのソロを絶賛していました。今回も成田さんのピュアで自然な音楽性が存分に活きるだろうと期待しています」。

©Marco Borggreve
成田達輝(ヴァイオリン)

2010年ロン゠ティボー国際コンクール第2位、12年エリザベート王妃国際音楽コンクール第2位。国内外の指揮者・オーケストラと多数共演し高い評価を得るとともに、リサイタルやジャンルにこだわらない様々なアーティストとの室内楽においても圧倒的なテクニックと多彩な表現力を披露している。現代作曲家とのコラボレーションも多く、22年9月には坂本龍一のプライベート録音に参加し『ソナタ』などを演奏。使用楽器は、A. ストラディヴァリ「Tartini」1711年製(宗次コレクションより貸与)。

『サントリーホール サマーフェスティバル 2026』では、今回掘り下げた「時を編む響」のほか、沼尻が若手演奏家たちとともに立ち上げるアンサンブル・ゴーフォーイット」の第1回演奏会も開催され(8/22 ブルーローズ[小ホール])、沼尻の長年の音楽活動を通して蓄積された、現代音楽に対する豊富な経験が、新しい世代の音楽家たちへと継承される。そうした試みは日本の音楽界の未来に確かなインパクトを残すだろう。

沼尻「現代音楽のコンサートには、滅多に演奏されない作品が聴ける貴重な機会であることを前面に押し出して、イベントのように盛り上げていくものも少なくありません。そうしたアプローチも悪くはないのですが、ベートーヴェンやブラームスのような古典が演奏される普段のコンサートの延長として、現代の音楽を聴いていただきたいというのが私の思いです。

現代音楽を特別なものとして古典と切り離すのではなく、バッハやモーツァルトから連綿と続く音楽史の流れに連続するものとして、同時代の作品を捉えることが大切だと思っています。かつてはそれを破壊することを主眼とした作品も多く作られて、誤解も生じていると思いますが、今回取り上げる作品はいずれも音楽史の連続性が感じられるものばかりです。両日とも安心して(笑)サントリーホールへおいでください」。

現代音楽を日常に」という沼尻の想いを受け止めて、私たちも身構えることなく、時代の響きに耳を傾けたい。

サントリーホール サマーフェスティバル 2026
サントリーホール開館40周年記念「時を編む響」

日時:8月27日(木)18:30開演
会場:サントリーホール 大ホール

曲目
第1部
カミーユ・ペパン(1990~ ):弦楽四重奏のための『シルヴァカーヌの水の葉』(2019) 日本初演
池田亮司(1966~ ): 9本の弦のための『op. 1』(2000~01)日本初演

第2部
三善晃(1933~2013): ソプラノと管弦楽のための『決闘』(1964)
武満徹(1930~96): ピアノと管弦楽のための『リヴァラン』(1984)

第3部
ショーン・シェパード(1979~ ): 管弦楽のための『表現抽象主義』(2017) 日本初演
トーマス・アデス(1971~ ):
ヴァイオリンと管弦楽のための『アリア(エア)』~シベリウスへのオマージュ(2021~22) 日本初演

出演
ソプラノ:砂田愛梨
ピアノ:小林愛実
ヴァイオリン:成田達輝
ヴァイオリン:石上真由子
ほか 
指揮:沼尻竜典
東京交響楽団

料金:指定席 S席 6,000円/A席 4,000円/U25席 1,000円

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八木宏之
八木宏之

1990年、東京生まれ。青山学院大学文学部史学科芸術史コース卒。愛知県立芸術大学大学院音楽研究科博士前期課程(修士:音楽学)およびソルボンヌ大学音楽専門職修士課程(M...