《お前には勇気があるか》(1904)では、「お前には、心臓の血とこの世の喜びを、真実と正義のために犠牲にする勇気があるか」と、戦いへの参加を呼びかける。
この時期のシベリウスは、祖国の状況に強い危機感を覚え、作品を通じて人々を鼓舞しようと試みていたことがわかる。《フィンランディア》の激情は、まったく例外ではなかったのだ。
だが、それらの作品の中で、《フィンランディア》以外の曲は、フィンランド国外ではほとんど知られていない。ほかの作品の出来が悪いからではないだろう。シベリウスは、たくさんの人々によりわかりやすくメッセージを伝えるために、それらの作品の多くを、歌詞のある合唱曲として書いた。音楽は世界共通の言語と言われるが、言葉が付くと事情が違ってくるのだ。
しかし、歌詞を探して読んで聴くのが面倒だからといって、まるでそういった作品を取るに足らないもののように扱ってシベリウスを語ってしまうと、やはりこの大作曲家を見誤ってしまう。
歌詞がわからなくても、これらの作品は力強く、伝わるものはあるから、聴く価値は十分にある。そういう作品たちが存在して、その中から《フィンランディア》が生まれてきたということを知っているだけでもいい。それだけで、《フィンランディア》の、あるいはほかの交響詩や交響曲の感じ方が、何かしら変わってくるはずだ。国交樹立から100年の節目となる今年、シベリウスの知られざる熱い音楽に耳を傾け、フィンランドの苦難の歴史に思いを馳せてみてはいかがだろうか。