話す声やリズム、コーヒーを飲む仕草、木の葉が風にそよぐ音……生活のすべてが音楽

――音楽を子育てに取り入れるにはどうしたらいいでしょうか。

T 僕は日常の一部として歌ったり楽器を演奏したりしているし、どんなジャンルの音楽も楽しんで聴きます。読書の時はクラシックを聴くことが多いですね。両親はクラシックばかりだったから、子ども時代は一時期クラシックが嫌になってロックに走ったこともあった。でも最近は一周回って「あっ、クラシックってこういうものなんだ」と改めて良さに気づきましたね。ジャズやボサノバが家に流れていることもあるし、テクノや民族音楽も。

もし家庭に音楽を取り入れたい、子育てに音楽を生かしたいと思われるならば、まずはお父さんやお母さん自身が音楽をやって、音楽を楽しむ経験をしてほしいですね。自分自身に「楽しい!」と思える経験がなければ、その楽しさを子どもに伝えることは難しいので。

とはいっても音楽は元々楽しいものなのだから、改めて「楽しみ方を知る」というのもおかしな気がします。僕にとっても音楽とは「当たり前のもの」という感覚。それも歌声や楽器の音、きまった楽曲とかだけを「音楽」というのではなく、こうやって話している声ややりとりのリズムも音楽だし、コーヒーを飲む仕草や時間も音楽だし、木の葉が風にそよぐ音も、生活の中にあるものすべてを「音楽」と捉え、音楽として楽しんでいる。音楽とはもう、生きることのすべてですよね。

音楽って、人間が生まれ持った本能なんじゃないかな。子どもたちが音楽に合わせて自然に踊り出すのも、歌を口ずさみ始めるのも、誰かが教えたわけではないじゃないですか。だからやっぱり「音楽の楽しさを子どもたちに教えてあげたい」と大上段に構えるのではなく、人間がもともと持っている音楽を楽しむ心、それを「どう引き出してあげようかな」と考える方が大切だと思うんですよね。

小島綾野
小島綾野 音楽ライター

専門は学校音楽教育(音楽科授業、音楽系部活動など)。月刊誌『教育音楽』『バンドジャーナル』などで取材・執筆多数。近著に『音楽の授業で大切なこと』(共著・東洋館出版社)...