のような感じになります。すべての層が完全に同じになることは、特殊な効果を狙うのでもなければ避ける必要があるのです。
大きなホールで弾くときに大切なのはまさにこの考え方で、たとえば6以下の弱音が使えないホールで弾かなければならないとき、音楽を面でとらえてすべてを5で弾いてしまっていると、すべての音がホールで使える音量帯から外れ、まったく響かなくなる瞬間が発生してしまいます。聞こえないからとすべてを6以上に無理やり上げると、今度はダイナミクスの構成やバランスがおかしくなり、音楽そのものがおかしくなります。
しかし音楽を層でとらえていろいろな音量帯を組み合わせておけば、どれかの層が使えなくなってしまったとしても必ず重要な輪郭だけは残るので、音楽が立体的になるだけでなく調整も楽になるのです。
大音量を表現したいときには、それまで輪郭に対してコントラストをなしていた層を輪郭に近づけ、たとえば
主旋律:9
内声:5 – 6
バス・対旋律:8
くらいにすることで、実際に音量がそれほど大きくなくても強さを表現することができます。とにかく頑張ったり無理したりしないことが大事で、自然な体の動きや楽器の扱いで使える音量帯を見極めて、そのなかでできることを考えなければなりません。
実はこれは「広い空間で大きな音を出す」ことに限った話ではなく、逆方向でも同じことがいえます。実のところピアノという楽器は大きな音をつくるよりも小さな音をつくるほうが圧倒的に難しいもので、たとえば狭くて響きやすい空間で、鳴りすぎるピアノを弾かなければならないとき、すべての音を小さくするにはたいへんな努力が必要です。
可能な限り指に重みが乗らないように姿勢を変えてみたり、椅子を低くしてみたり、そうこうしているうちに身体に力が入って力んだようになってしまったり……しかし、どこかひとつの層を明確に響かせると決めてそれ以外をコントラストとして小さくすれば、すべてを小さく弾くよりもはるかに簡単に弱音をつくることができることもあるのだと最近は感じるようになりました。
音楽の本質からはいくらか離れた作業かもしれませんが、避けられない課題なのは確かで、常に試しながら理想を探していかなければならないのかもしれません。