音楽家にとって意外と大変な移動中の睡眠と食事

さて、シューマンとクララは最終的に結婚できたわけですが、収入の大部分はクララの演奏家としての仕事にかかっていました。各地を移動しながら公演を行なうことが、当時の交通事情からしてどれほど大変なものであったかは想像に難くありません。現代ではインフラが発達し、シューマン夫妻の時代ほどではないにしろ、移動にはなかなか気を使うものがあります。

移動の際、私がもっとも気をつかうのは「寝てはならぬ」ことです! 飛行機や新幹線での長距離移動のとき、つい座った状態のまま寝てしまうのですが、首を寝違えてしまったり、身体の重心や背骨が微妙にずれ、鍵盤に対する手の位置がわずかに変わることでミスタッチの確率が大きく上がってしまう気がするのです。

そして「食べられるときに食べられるものをなんでも食べる」ということも。これもかなり大事で、たとえ極寒の待合室であっても自販機のアイスクリームしかなければ冷たいアイスクリームを食し、空腹でなくても胃の調子が悪くとも食べられるお店を見つければとにかく入って食べるのです!  良いタイミングで食事がとれるとは限りませんし、空腹のときに食事処にありつけず、翌日まで何も食べられないということは意外に多く、食事の調整はいつも悩みどころです。複雑な移動のスケジュールと並行して演奏の質を維持することは、実のところ音楽以外の面においても意外と大変なのです(あまり理解されませんが、ね……)。

それでも各地でのさまざまな出会いはとても楽しみにしていて、それを励みに頑張りたいと思っています!

ショパン音楽大学の練習室。毎朝7時の開門に合わせて大学へ練習に行っています。冬の間は天気の良い日が極端に少ないので、こんな青空が見えたら一日ハッピーです
牛田智大
牛田智大

2018年第10回浜松国際ピアノコンクールにて第2位、併せてワルシャワ市長賞、聴衆賞を受賞。2019年第29回出光音楽賞受賞。1999年福島県いわき市生まれ。6歳まで...