以下、終演後の囲み取材にて(一問一答)。

——初日を無事終えられて、今の率直な気持ちを教えてください。

とうとう開幕したな、という感じがいちばん強いです。本当にたくさん緊張しましたし、もちろんすごく時間をかけて毎日トレーニングも練習も積んできましたけれども、やはり本番になってみてみなさんの前ですべってみないとわからない……成功なのか失敗なのか、みたいなところもあったので、正直「とうとう始まったな」っていう気持ちと、まずは初日を怪我なく、ストーリーとして完結できて良かったなという気持ちでいます。

——今回の「ICE STORY 3rd」は“生きる”をひとつテーマに掲げて制作されたということですが、改めてそこに込めた思いや狙いについて教えていただけますか。

もともと自分が生命倫理っていうものを小さい頃からいろいろ考えたり、または大学で履修したりしていく中で、“生きる”ということの哲学についてすごく興味を持っていました。そこから、ずっと自分の中でぐるぐるとしていた思考であったりとか、理論であったりとか、そういったものをまた勉強し直して、みなさんの中にもこの世の中だからこそ、その“生きる”ということについて、みなさんなりの答えが出せるような、哲学ができるような公演にしたいと思って“Echoes of Life”をつづりました。

——そして、改めてになりますが、お誕生日おめでとうございます。

ありがとうございます(笑)。

――たくさんのファンのみなさんに今日もハッピーバースデーとバナーもたくさんありましたが、あのような光景の中で迎えられた30歳、いかがでしたか。

30歳になるんだなぁっていう気持ちと、いま30歳と言われて「あ、30歳かぁ…」って思ったんですけど(笑)、でも自分が幼い頃からずっと思っていた30代っていうものと、いま現在自分が感じているこの体の感覚や精神状態を含めると、全然想像と違っていたなって思いますし、まだまだやれるなっていう気持ちでいます。

エコーズの中でも、未来って何?とか、過去って何?という問いが出てきますけど、本当に未来は自分が想像しているよりももっともっとよくもなるし、なんか……“いま”という中で最善を尽くしていくことで、自分の中では「30っておっさんじゃん」って(笑)思っていた頃とは違った30代を迎えることができたなと、なんとなく思っています。

——30代の抱負をお聞かせください。

自分の中では、フィギュアスケート年齢としては劣化していくんだろうなっていう漠然としたイメージがあったんですけど、たとえば野球とかサッカーとかに置き換えて考えてみたら、これからやっとその経験とか、自分の感覚であったり技術だったりとかが脂が乗ってくる時期だと思うので、自分自身の未来に、それこそ希望を持って、絶対にチャンスをつかむんだっていう気持ちを常に持ちながら、練習にもトレーニングにも本番にも臨みたいと思います。

——文字が音になるという発想が面白くて、音に翻弄されているみたいな感じがしました。どのような思いから生まれたのでしょうか。

もともと自分は、光景が――例えば色とかが音になっていたりとか、感情になったりとか。簡単に言うと、たとえば赤っていう色に対して情熱って思う方もいらっしゃったら、それが恐怖と捉える方もいらっしゃる。そこは人それぞれの解釈なんだけれども、そういうことを、より僕は“音”として、わりと小さい頃から聞こえてきたタイプだったんですね。絶対音感があるとかではなくて、何となくメロディ的な感覚で聞こえてくるような感じがしていて。そういった自分の経験だったりとか、またフィクションとして書く中で、この子(NOVA:主人公)にどういう能力を持たせようかな、ということを考えたときに、自分がトレーニングとしてやっている言葉の抑揚であったりとか、意味であったり、そういったものを表現することをその物語の中に入れ込んで、全体を哲学が音として体に入ってくる。それでその哲学が音楽になってプログラムができあがる、みたいなことをいろいろ発想を飛ばして書いていった物語です。

——今日の物語の中には、思わず書き留めたくなるような言葉がたくさんありました。ひとつを選ぶのは難しいと思いますが、あえてひとつ選んで思いを語っていただけたら。

ほんとうにいろんな哲学書を、その生命に対してだったりとか、また自分が大学で履修していた教授の本であったりとか、そういったものを読み直していろいろ綴っていったんですけれど、そうですね……、「運命」っていうのが、その偶然の連なりっていうことを、その哲学書をいろいろ読みながら学んでいって、ほんとうにすごく脆くて、“なんでこんな偶然が繋がっていったんだろう”っていうような運命が、きっと人それぞれあるんだろうなって思って、それがみなさんの中でいろいろ振り返ったときだったりとか、現在進行形でその運命を感じているようなときに、なんていえばいいんでしょうか……滅多に出合えないような、こんな偶然の出来事に出合えたんだっていう喜びであったりとか、奇跡みたいなことをぜひ感じてもらいたいなって思って綴った文章のひとつです。

——今回、新作衣装もたくさんあったと思うんですけれども、いちばん思い入れの深い衣装について。

やっぱりNOVAの衣装ですかね。映像の中と実際に演技するっていう衣装のリンクっていうことを今までしたことがなかったので、正直、本当にファッションに使えるような服を氷上で着るということはけっこう難しかったのは難しかったんですけど、やっぱりそのNOVAという主人公の衣装にはかなり思い入れが強いものがあります。

また今回、フィギュアをずっと専門にしてくださっている方も含めて、また新たにフィギュアをつくってこられなかった方も参加してくださって、何着も何着もアレンジをくり返して作り上げた衣装たちもたくさんあるので、もちろん「RE_PRAY」であったりとか、「GIFT」、「プロローグ」とはまた違った毛色のアイスストーリーになっていますし、そういった衣装も含めて、フィギュア(の衣装)っぽくないというか、エコーズじゃないと見られない衣装の布感であったりとか、そういったものもぜひ感じてもらいたいなって思っています。

——今回、映画というか映像がありましたが、撮影に要した時間はどれぐらいなのかと、あともともとスクリーン上での演技や芝居に挑戦したい思いはあったのか、お伺いしたいです。

まず後ろの質問からなんですけど、僕、1回映画に出演させていただいたことがあって、お芝居というものをさせていただいたんですけど、ほんとうに「あっ、向いてないな」って思ったんです、その時に(笑)。だから、なんだろう……映画に出たいとかそういう気持ちは全然なくて、ただNOVAという主人公に対して演じるということに関しては、何も違和感がなかったというか。やっぱり自分が綴った物語であって、自分が完全に入り込める主人公を描いているので、そこに関しては、やっぱり自分が演じないといけないな、という感覚ではいました。それで、撮影に要した時間なんですけど、3日間ぐらいかけてですかね。丸2日間ずっとやって、半日ぐらいやって、もう1回半日撮って……みたいなことと、プラス、ナレーション録りをしなきゃいけないので、ナレーション録りもまた2日かけて録っているので……大変でした(笑)。はい。

——クラシック、民族音楽、現代の音楽などを使われていらして、でもひとつの作品としてすべてが合っていて、とても素晴らしい作品だと思いました。選曲と表現のこだわりについて、ぜひ教えていただけますでしょうか。

「RE_PRAY」が、けっこうゲーム寄りにつくっていたので、新プロをつくりつつも、わりとクラシカルなものを結構やりたいっていう気持ちがあったのと、また今回のテーマ的にも、哲学ということをテーマにしていたので、ピアノの旋律であったり、また気持ちが凛とするような曲たちを、わりと多めに選曲しています。

その中で、たとえば自分がストーリーを描く中で、“ここは戦いたいところだな”とか、“ここは芯を持つべきところだな”とか、“ここは言葉をそのまま使いたいところだな”とか、そういったことをいろいろ考えた中で、いろいろ選曲をこだわっていたという感じですかね。

今回とにかくいちばん悩んだのは、5番目の曲。ピアノのクラシックの連続のところからの「バラード1番」っていうのが、今までやったことのない、1回もはけないで30秒間ずつくらいでずっとプログラムを演じ続けるみたいなことをやっているんですけど、あの部分は清塚信也さんと一緒にクラシックのことも勉強し、どういう意味を込めて弾きながら、また僕もジェフリー・バトルさんに振り付けを頼んでいるんですけど、ジェフともいろいろ「こんなイメージですべりたい」っていうことをほんとうに綿密に計算しながらつくった10何分間のプログラムです。

2024年12月7日のさいたまスーパーアリーナを皮切りに、1月に広島、2月に千葉・船橋でも開催予定。詳細は下記公式サイトをチェック!
●ICE STORY 3rd -Echoes of Life- TOUR:https://echoesoflife.jp/

鈴木啓子
鈴木啓子 編集者・ライター

大学卒業後、(株)ベネッセコーポレーションに入社。その後、女性誌、航空専門誌、クラシック・バレエ専門誌などの編集者を経て、フリーに。現在は、音楽、舞踊、フィギュアスケ...