楽譜を一から打ち直す?!途方もない準備を経た説得力

中山美紀(以下、中山) 私は、2017年のアントネッロとラ・フォンテヴェルデのモンテヴェルディ「聖母マリアの夕べの祈り」(通称ヴェスプロ)の時に初めて濱田先生とご一緒させていただいて、それが本当にすごくて。聴いたことのある曲が全然違っていたんです。

そのとき、私は大学院を出たばかりだったので、何が起きているのかまだわからなくて。でも、とにかく感動するし、先生の音楽はなんでこんなに興奮するんだろうって、終わった後も1年間ぐらいずっと考えて引きずっていました。

2019年の「オルフェオ物語」(レオナルド・ダ・ヴィンチが手がけた音楽劇の蘇演)で、またお声がけいただいて以来、音楽の秘密のような部分を奏者として色々と学びながら、一緒にやってきました。

先生はほんとうに途方もない準備をされるんです。「メサイア」も「マタイ受難曲」も、既存の楽譜ではなくて、全部楽譜を一から打ち込んで作り直される。全部のフレーズのアイデアを膨らませて、何もかも自分のものにした状態でスタートされる。

とんでもない勉強量と、絶対にかなわない演奏力があるから、みんながついていくのだと思います。その圧倒的なところに毎回驚きますし、1個1個のフレーズも、一つ音が上がるだけでも、アイデアが無限に現れて迷いがないんです。

中山美紀(ソプラノ)
神奈川県出身。東京藝術大学卒業、同大学院独唱専攻修了。卒業時にアカンサス音楽賞および同声会賞を受賞。全日本学生音楽コンクール、国際古楽コンクール〈山梨〉、スペイン音楽国際コンクールなどで上位入賞を果たす。第24回ABC新人コンサート音楽賞受賞。これまでヘンデル《メサイア》、J. S. バッハ「ロ短調ミサ曲」《マタイ受難曲》、モーツァルト「レクイエム」「戴冠ミサ曲」、ベートーヴェン「第九」、ロッシーニ「小荘厳ミサ」、マーラー《千人の交響曲》「交響曲第4番」など多くのソプラノ・ソロを務める。近年は古楽アンサンブル「アントネッロ」のソリストとして頻繁に共演。各種コンサートをはじめ、オペラでは《オルフェオ物語》プロゼルピナ、《ジュリオ・チェーザレ》クレオパトラ、《ラ・カリスト》題名役にて出演した。