――以前、アントネッロのヘンデル「ジューリオ・チェーザレ」のときに、日本語のセリフの芝居で政治の話が出てきて、「王党派だろうが議会派だろうが、好きな音楽さえできればどっちでもいいんだよね」って彌勒さんがおっしゃった。実感のこもった即興的な本音みたいで、いい意味で逸脱したような自由で強烈な印象がありました。
彌勒 それはヘンデルの話をしているのだけれど、僕は濱田先生に引っかけて、お客さんにわかるように言ったんです。いちおう真面目に台本通りのセリフです。(笑)
いかにも自分がその場でその役が思いついたことを言っているようにするのは、やはり役者としての技術というか、それが力なのだとは思います。鴻上尚史さんの劇団第三舞台出身の岩田達宗さん、オペラの演出でいま素晴らしい活躍をされていますが、彼と役者が2人しか出ない芝居を若い頃一緒に、 ストレートプレイでやりました。たぶんそのときの経験も自分にとっては役に立っています。
もうひとつは、もともと私はサントリーホール オペラ・アカデミーの出身で、森麻季さん、幸田浩子さん、櫻田亮くんがいる時代でした。自分の公のオペラ・デビューも、サントリーホール主催のホール・オペラ®のロッシーニ「オテッロ」だし、レナート・ブルゾンが主演した「ファルスタッフ」では、そのブルゾンのお小姓として舞台に出ました。全員イタリア人のキャストは、そのときブルゾンさんをはじめとして、本当に日常のそのままで舞台に出てきたような感じでした。オペラだからといって様式的に動くのではなくて、自然に振る舞う方がいいのかなと思ったことがすごく大きいですね。
――そのナチュラルな感じの演技も、アントネッロのなかでの彌勒さんの欠かせない存在感になってきている気がします。