現在生活するヨーロッパが、演奏に及ぼす影響も大きい。「言語や食べ物など、日常生活からも毎日のように吸収するものがあります。また、フランスで師事することになったジャン=マルク・ルイサダ先生のレッスンは、先生の独特な視点や思考に触れ、驚きの連続です。それを演奏でアウトプットしたいと願う気持ちは、アマチュアもプロも関係ないと思うのです」
フランスのアマチュア界の活気と軽やかさにも惹かれるという。「日本でコンサートの準備というと、半年あるいは1年前から始まりますよね。ホールやピアノなども、演奏の環境は日本の方がずっと優れていますが、フランスでは、演奏の機会という点で、いわば「来週、一緒に呑もうよ」的な、堅苦しくないネットワークがあるのです。音楽を通した人脈が加速度的に広がっていく、そのスピード感も楽しんでいます。また、アマチュア奏者のコンサートが満席になるということにも驚きました。日常と文化の距離の近さを感じますね」
山﨑さんの意見に頷くのは、パリ・パスツール研究所で免疫学の研究に従事する医学博士の江里俊樹さん。江里さんも、今年6月「イル・ド・フランス国際ピアノコンクール」で特別賞を受賞した。
日本では演奏の機会も多く、それを目標とすることが自然とモチベーションにつながっていたという江里さん。昨年は日本に拠点を作ることになったパスツール研究所が企画したチャリティーコンサートに出演し、ヴァイオリニストの北浜怜子さん、チェリストのクリストフ・ボーさんと共に、東京のすみだトリフォニーホールなどでピアノ・トリオのコンサートを行なった。
「フランスで長く活動されているプロ奏者の方々との演奏は、かけがえのない経験です。コンサートでは、日本の聴衆の方々にパスツール研究所の活動内容を私のトークで紹介できたことも有意義だったと思います。研究所は日仏の文化交流にも力を注いでいますが、両国の研究者が交わる中、仕事の枠を超えた交流に音楽で貢献できたことを幸せに思っています」