——古田さんご自身は、ベートーヴェンをどんな人だと思っていらっしゃいますか。
古田 破壊者。「第九」に合唱をぶち込んでくるとか、「運命」みたいな衝撃的な曲を貴族の前で演奏しちゃうとか、それまでのクラシック音楽の世界では考えられないことをやった人ですよね。ハードロックだしパンクです。
音楽家としては天才だったんですけど、だからこそ逆に人間的には「変人」で絶対に情緒不安定だったと思ってました。じゃなきゃ「第九」のように交響曲にコーラスを入れるなんて思いつくはずがない。今回の作品で描かれているような偏屈でかんしゃく持ちで変わり者のベートーヴェン、というのはおいら自身が思っていたイメージと同じだったので、とても演じやすかったです。
ベートーヴェン:交響曲第5番《運命》、交響曲第9番《合唱付き》
——ベートーヴェンは耳が不自由でしたが、演じるうえでご苦労などはありましたか。
古田 後天的に耳が不自由になった人なので、発音は普通にできたんですよね。ただ相手の声は聞こえないので、そこで会話帳を介しての「会話」になる。他の人たちが筆談で書いた文字を読んでから怒るので一瞬そこに空白が生じるんですね。そのコミュニケーションのスピード感のズレが、演じていて面白かったところです。
——映画の中で、印象に残っているシーンはありますか。
古田 「第九」を指揮するシーンは楽しかったですね。「第九」は4拍子の曲だけど指揮は2拍子で振るんです。4拍子で振ると柔らかさが出ちゃうから、より激しさを出すには2拍子で振るほうがいい、と指揮の先生に教えられてなるほど、と思いました。
「第九」が終わってみんなが盛大な拍手をしているのに、ベートーヴェンは耳が聞こえないから気づかなかった、という有名なシーンも、本人は至ってマジメなんだけど側から見るとちょっと滑稽で、でも感動的で。ベートーヴェンという人のチャーミングな人間的魅力が表れていると感じました。人間的には変人だったかもしれないけど、音楽家としては紳士だったということがわかるシーンだと思います。