古田新太(ふるた・あらた)
劇団☆新感線の看板役者。大阪芸術大学在学中の1984年から劇団☆新感線に参加。エネルギッシュな迫力ある演技には定評がある。劇団公演以外の舞台にも積極的に参加している他、自身で企画・出演を務める演劇ユニット“ねずみの三銃士”などもある。活躍の場は広く、バラエティ番組への出演や多くのCM出演、コラムニストとして雑誌連載を持つほか、著書に『気になちょるモノ』『ドンジュアンの口笛』『魏志痴人伝』『柳に風』がある。

——古田さんご自身は、ベートーヴェンをどんな人だと思っていらっしゃいますか。

古田 破壊者。「第九」に合唱をぶち込んでくるとか、「運命」みたいな衝撃的な曲を貴族の前で演奏しちゃうとか、それまでのクラシック音楽の世界では考えられないことをやった人ですよね。ハードロックだしパンクです。

音楽家としては天才だったんですけど、だからこそ逆に人間的には「変人」で絶対に情緒不安定だったと思ってました。じゃなきゃ「第九」のように交響曲にコーラスを入れるなんて思いつくはずがない。今回の作品で描かれているような偏屈でかんしゃく持ちで変わり者のベートーヴェン、というのはおいら自身が思っていたイメージと同じだったので、とても演じやすかったです。

ベートーヴェン:交響曲第5番《運命》、交響曲第9番《合唱付き》

——ベートーヴェンは耳が不自由でしたが、演じるうえでご苦労などはありましたか。

古田 後天的に耳が不自由になった人なので、発音は普通にできたんですよね。ただ相手の声は聞こえないので、そこで会話帳を介しての「会話」になる。他の人たちが筆談で書いた文字を読んでから怒るので一瞬そこに空白が生じるんですね。そのコミュニケーションのスピード感のズレが、演じていて面白かったところです。

古田さん演じるベートーヴェン。なんと地毛で臨んだそう!
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——映画の中で、印象に残っているシーンはありますか。

古田 「第九」を指揮するシーンは楽しかったですね。「第九」は4拍子の曲だけど指揮は2拍子で振るんです。4拍子で振ると柔らかさが出ちゃうから、より激しさを出すには2拍子で振るほうがいい、と指揮の先生に教えられてなるほど、と思いました。

「第九」が終わってみんなが盛大な拍手をしているのに、ベートーヴェンは耳が聞こえないから気づかなかった、という有名なシーンも、本人は至ってマジメなんだけど側から見るとちょっと滑稽で、でも感動的で。ベートーヴェンという人のチャーミングな人間的魅力が表れていると感じました。人間的には変人だったかもしれないけど、音楽家としては紳士だったということがわかるシーンだと思います。

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