だが「コラール・カンタータ」のシリーズに参加したのは、世界各国の合唱団だけではなかった。その場にいた聴衆も、演奏に加わったのである。
まずカンタータの上演前に、そのカンタータで使われているコラールを、合唱団と聴衆で斉唱。カンタータの終曲は、テーマとなったコラールと決まっているのだが、今回は第1節が合唱団によって歌われ、第2節以降は聴衆も一緒に歌うという、これまで経験したことがないやり方が取られた。また各曲の前には、カンタータで使われているコラールをベースにしたオルガン・コラールが演奏されたのである。
礼拝ではない普通のコンサートで、聴衆がコラールを歌う! それも演奏者と一緒に。こんな経験は初めてだった。しかも会場では、歌われる66曲のコラールをすべて掲載した楽譜が無料で配られたのである。
実は今年は、「コラール・カンタータ」300周年であると同時に、前述の初の『讃美歌集』出版(1524年)から500年という、ダブル・アニバーサリーに当たっている。「コラール」にスポットが当たるのも当然だろう。しかしここまで「参加型」の「コラール・カンタータ」の上演は画期的だ。
客席も、この斬新な試みに当初は戸惑っている風だった。けれどいったんコラールが始まると、最初は恐る恐る、けれどすぐ思い思いに、歌が口からこぼれ出る。そのありさまを目撃するのは感動的な体験だった。
バッハの宗教音楽は、日本人にはなかなか縁遠く感じられるもの。けれど現地の、とくにルター派地域で教会に通う人にとっては、日常の礼拝でお馴染みの身近な音楽でもある。その親しさの大きな要因となっているのが、誰でも知っている「みんなのうた」=讃美歌であることは間違いないのである。