読みもの
2020.09.22
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その22

カンタータ:イタリア語の「歌う」が起源。バッハも作曲に追われていた!

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

J.S.バッハ カンタータ第147番《心と口と行いと生命》より第10番「イエスは変わらざる我が喜び」の自筆譜。「主よ人の望みよ喜びよ」の名で親しまれています。

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カンタータというと、いわゆる教会のために書かれた小難しいイメージがあるかと思いますが、実はそうでもないのです。カンタータの語源はイタリア語で歌うを意味する動詞cantareの分詞cantato(cantata)で、もともとは歌の入っている器楽曲全般を指します。

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カンタータという言葉が音楽史上初めて使われた曲は、イタリアの作曲家シピオーネ・バルガーリ(1540〜1612年)が、1589年にメディチ家の結婚式のために書いた《カンタータ・パストラーレ》です。

17世紀初頭になると、単に“声楽付きの器楽曲”という幅広い意味を持つカンタータのなかでも小さい作品は「アリア」や「マドリガル(感情的に歌われる声楽曲)」という名前に変わります。

大きなカンタータはざっくり分けて、色恋沙汰やコミカルな内容を描いた世俗カンタータ、そして聖書を引用した教会カンタータの2種類に分かれます。

特に教会カンタータは、ドイツにおいて大きく発展します。1517年、ルター(1483〜1546年)による宗教改革で生まれたプロテスタントは、今もドイツで大きな割合を占める宗派ですが、もともと音楽に親しみのあったルターは、礼拝に音楽を積極的に取り込みます。

マルティン・ルター作曲:《神は我がやぐら》

J.S.バッハ:コラール集〜《神は我がやぐら》BWV302
バッハがルターの原作を編曲した作品。

ルター《神は我がやぐら》の自筆譜

J.S.バッハ:カンタータ第80番《神は我がやぐら》〜第1曲 合唱
バッハがルターの原曲と詩をもとに、編成も長さも大きく発展させた作品。

カンタータ第80番《神は我がやぐら》〜第1曲 合唱
息子W.F.バッハによる写譜。最上段のオーボエパートに、ルターの賛美歌《神は我がやぐら》のメロディーが見られます。

その後、ルターが取り入れた教会音楽を引き継いで、J.S.バッハ(1685〜1750年)が生み出したカンタータの多くは、教会カンタータと呼ばれるものに当たります。特にドイツにおける教会カンタータでは、礼拝の際に、牧師が説教する内容を音楽によって理解してもらうための音楽として、聖書のテキストが適切に用いられました。

規律に厳格な教会カンタータは、キリスト教の暦(教会暦)に合わせて演奏されるため、演奏される日にちが決まっていました(那須田務さんによる連載「おはようバッハ」で紹介中!)。そのため、バッハはトーマス教会の音楽監督(カントル)を務めた際、毎週の礼拝に合わせた曲を書かなくてはいけませんでした。たまに「どうしよう、今週の曲は間に合わない……」ということもあったようで、過去に書いた自分のお気に入りの曲を転用したり、逆にカンタータから別の曲に転用したりと、抜け道を探していました(笑)。

バッハのカンタータ原曲

1. カンタータ第29番《神よ、我ら汝に感謝す》〜シンフォニア
2.(1.の原曲)無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番 BWV1006〜前奏曲

3. カンタータ第156番《我が片足はすでに墓穴に入りぬ》〜シンフォニア
4.(3.の原曲) オーボエ協奏曲 BWV1059〜第2楽章

5. カンタータ第174番《我いと高き者を心尽くして愛をまつる》〜シンフォニア
6.(5.の原曲) ブランデンブルク協奏曲第3番 BWV1048〜第1楽章

バッハと同時代で関わりのあったグラウプナー(1683〜1760年・ドイツ)という作曲家は、生涯で1400曲(!)もの教会カンタータを書きました。

しかし、限定された演奏機会しかない教会カンタータは、あまり作曲されなくなっていきます。逆に、宗教的なカンタータでも自由な形式によるものや、しばりのない世俗カンタータは、その後も多くの作曲家によって作曲されました。

いろいろなカンタータを聴いてみよう

1. スカルラッティ:室内カンタータ《マルカントニオとクレオパトラ》〜第8曲 二重唱
2. J.S.バッハ:カンタータ第147番《心と口と行いと生命》〜第10曲 合唱「イエスは変わらざる我が喜び」
3. ベートーヴェン:カンタータ《静かな海と楽しい航海》作品112〜第2部「楽しい航海」
4. ブルックナー:祝祭カンタータ WAB16
5. プーランク:世俗カンタータ《仮面舞踏会》〜第1曲「前奏曲と華麗なアリア」
6. オルフ:世俗カンタータ《カルミナ・ブラーナ》〜第1曲「おお、運命の女神よ」

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

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