ブルックナーは第3主題の“ダサさ”がいい!

広瀬 以前、指揮者のファビオ・ルイージがブルックナーの「交響曲第2番」を演奏した際にインタビューをしたとき、こんな話を聞かせてくれました。

ルイージ曰くブルックナーは田舎で暮らしていたけれど、40歳を過ぎてから突然大都会ウィーンに出た。でも根っこは田舎ものだから、周囲と摩擦ばかり起こしていた。シンプルな田舎マインドの持ち主、ブルックナーが、一方では最先端のワーグナーの複雑怪奇な音楽、後期ロマン派的な世界に触れ、それを会得し、異様に複雑なオーケストレーションができるようになってしまった、と。

つまり、シンプルさと複雑さを同時に持ち合わせている。それがブルックナーなのだ、と。だから、音楽も振り幅が大きくて、ついていけないと感じる人がいる原因になっているかも、とおっしゃっていました。なるほどなあ、と、一瞬で納得してしまいました(笑)。

いまだから告白しますが、実は私自身も、30歳くらいまでは、「ブルックナーの音楽ダッセー!」と思ってたんですよ。

一同 え!?

広瀬 こんな座談会やってるくせに意外ですか?(笑)「交響曲第7番」の第4楽章を例にお話します。通常のソナタ形式では、主題というのは2つ、第1主題と第2主題が出てきます。でもブルックナーは3つの主題を使っているんですね。後期の交響曲では3つ使うことが多いです。で、その第3主題は、だいたい素朴で力強い感じ。これがですね、実にダサいんです!(※愛情表現です。笑) みんなで一斉に、チャーランチャン! みたいな。村のお祭りみたいになる。

ブルックナー:交響曲第7番第4楽章

広瀬 このお祭り感、ほんとうに意味がわからない。このひと、何考えてるんだろう?  とずっと思ってました。でも、私も年齢を重ねたせいか、ある日突然、「でも、そんなシンプルな音楽だって、ブルックナーが本当に伝えたかったんだろうな」と、急に魂レベルで共感できるようになっちゃった。荘厳な第2楽章みたいに、ワーグナーばりのかっこいい、複雑な音楽だって書ける。だけど、このシンプルで、聴きようによってはダサい音楽も、同時にやりたかったんだろうな、って。その瞬間から、一気にブルックナーの音楽が受け入れられるようになった。

今だって、どこかでダサいとは思ってるんですよ?(笑)でも、もうすぐあのダサい主題がくる! とワクワクする自分がいる。早く来い来い第3主題、みたいな。

編集部M かなり好きじゃないですか……。

広瀬 大好きですね! 演奏もダサさ極まる感じでやってくれたらなお嬉しい。私も変態ですね。とにかく、「第7番」はブルックナーの交響曲にしてはコンパクトなほうだし(60〜70分かかるけど)、フォルムとして整っていて聴きやすい。入門にはおすすめです。

ブルックナー:交響曲第7番