チャイコフスキー・コンクールの問題で得た教訓

——政治情勢が変化し、コンクール連盟には考えるべき問題が多くありそうです。冷戦後数十年、国際政治とコンクールの問題は忘れかけられていたところに、また出場者の出身国などが気にされる状況になってしまいました。

K そうですね。ご存知のようにコンクール連盟はチャイコフスキー・コンクールを除名しました。しかし我々はチャイコフスキー・コンクールやロシア音楽、ましてやロシア人演奏家を否定するわけではありません。私自身、モスクワ音楽院で学んだ身です。我々が主張するのは、このコンクールがプロパガンダとして利用されている限り、若者に参加は推奨できないということです。

ただ今回の出来事で、コンクール連盟は、これまで音楽家を国籍でくくって見ていた前提を省みる機会を得ました。どんな困難も、それにより前向きな学びや反省が得られるわけで、今回もその意味でプラスに捉えたいと思っています*

*ブゾーニ・コンクールでは、出場者の出身国ではなく、出生地/教育を受けた地/現在の居住地を紹介している

ピアノ五重奏でピアニストの音楽的視野の広さが試される

——ブゾーニ・コンクールでは、最初のソロでブゾーニの作品が必須となっています。作品の魅力は?

ブゾーニは、グランドピアノから抽出できる倍音や雰囲気を熟知していました。

ピアニスティックに書かれ、現代の作品でありながら調性があるので、ピアノの美しい響きを楽しめます。作品を知っていただく良い機会になるでしょう。

 

フェルッチョ・ブゾーニ(1866~1924)
イタリア生まれのドイツの作曲家、ピアニスト、理論家、教育者。8歳でピアニストとしてデビューし、10歳で自作を披露した神童であり、ヘルシンキ、モスクワ、ボストンの音楽院でピアノを教授しながらバッハの鍵盤作品を研究し、それはのちにブゾーニ版バッハ譜となった。バッハ作品の変奏を組みこんだ「ヴァイオリン・ソナタ第2番」でみずからの作曲家としての方向を見定めたブゾーニは、07年に著した《新音楽美学構想》で従来の調性や形式によらない新しい音楽を提唱。ピアノのための《エレジー》や「ソナチネ第2番」で実践する。また、同じ様式でバッハの《フーガの技法》の追創作としての《対位法的幻想曲》を完成させた。10年代後半は,彼が「若き古典性」とよんだ主知的で簡潔、透明感のある作風に傾倒した。20年以降は、ベルリン芸術アカデミーの音楽マスター・クラスを受けもち、多くの後進を育てた