生徒たちから慕われた先生「ペール・フランク」

フランクは1873年、パリ音楽院のオルガン科教授に就任します。カヴァイエ=コル、サン=サーンスも推薦人でした。

生徒の中には、ヴァンサン・ダンディ、エルネスト・ショーソン、アンリ・デュパルク、そしてルイ・ヴィエルヌと、成功した作曲家たちが名を連ねています。門下生たちは先生を「ペール・フランク(父フランク)」と呼び慕い、「フランキスト」という言葉が生まれるほど熱狂的にフランクを支持しました。

オルガン科でありながら作曲の講義をしたり、教科書を無視する少々型破りな教授法。そして生徒たちからの人気に、周りの教授陣からの反感や嫉妬もあったとか。

サント=クロチルド教会

サント=クロチルド教会のパイプオルガンもカヴァイエ=コルが製作したもので、1859年に設置されました。フランクは設置と同時にオルガニストに就任し、この世を去る1890年まで務めました。

カヴァイエ=コルは1853年にサント=クロチルド教会のためにオルガンのデザインを描き、完成されたのは6年後の1859年のことでした。1859年12月19日に叙任式が行なわれ、フランクは、同じくオルガン奏者として活躍していたルイ・ジェームズ・アルフレッド・ルフェビュール=ヴェリとともに演奏を披露しました。

ジャンヌ・ロンジェ《サント=クロチルド教会のパイプオルガンを演奏するセザール・フランク》(1888年)

この教会で《三声のミサ曲》、そしてこのミサ曲に後から追加される名曲《天使の糧》が作曲されました。

1860年頃のサント=クロチルド教会
壮大なパイプオルガン

このオルガンについてカヴァイエ=コルは、「壮大なスケールのクレッシェンドができるように、ダイナミクスの奥行きを完璧に考慮して作られています」と書き残しています。フランクはこのオルガンを心から愛していたそうです。

サント=クロチルド教会のオルガンでフランク作品を聴いてみましょう。演奏しているのは1945年から1988年まで、この教会の第5代オルガニストを務めたジャン・ラングレーです。

ラングレーは、サント=クロチルドの第3代オルガニストだったトゥルヌミールに即興演奏を師事していました。トゥルヌミールと、その前任者で第2代ピエルネもフランクの弟子、第4代のエルマン=ボナルはトゥルヌミールの弟子だったので、この教会のオルガニストの座は約100年間、フランクの弟子たちが守っていたことになります。

現在、第8代オルガニストを務めているのはオリヴィエ・ペナン。フランクの「大オルガンのための交響的大曲」(1860〜1862作曲)をサント=クロチルド教会のオルガンで演奏しています。

パリのカヴァイエ=コル・オルガンで聴くフランク作品

マドレーヌ寺院

ルイ15世が建設を命じ、ナポレオン1世が完成させたマドレーヌ寺院。オルガンは1849年、比較的若いころのカヴァイエ=コルが制作しました。クロチルドでフランクと共に演奏したルフェビュール=ヴェリや、友人サン=サーンス、その弟子フォーレらが正オルガニストを務めた由緒あるオルガンです。

マドレーヌ寺院の大オルガン
©︎Cmcmcm1

フランクの弟子だったヴィエルヌの孫弟子で、1962〜1968まで正オルガニストを務めたジャンヌ・ドゥメッシューの演奏するフランク作品集を聴いてみましょう。

サン=シュルピス教会

ヴェルサイユやルーヴルを設計したルイ・ル・ヴォーが設計、凱旋門を設計したジャン・シャルグランが現在の形に完成させたパリで2番目に大きい教会、サン=シュルピス。

オルガンは、伝説のオルガン製作者フランソワ=アンリ・クリコのオルガンをカヴァイエ=コルが再建。100のストップと、5段鍵盤による大オルガンはカヴァイエ=コル制作、そして世界でも最大のオルガンです。

このオルガンの落成にはフランクも関わったと言われています。

このオルガンの椅子に座ってきたのは、フランクの友人で、死後にパリ音楽院の後任教授となったシャルル=マリ・ヴィドール(カヴァイエ=コルの推薦により、25歳という若さでの快挙でした)。その弟子マルセル・デュプレ、その弟子のジャン=ジャック・グリュネンヴァルド。

ウィドールから数えて4代目、現在のサン=シュルピス教会オルガニストを務めるのはダニエル・ロト(指揮者フランソワ=グザヴィエ・ロトのお父さん)。フランクの晩年の作品をこのオルガンで録音しています。

パリ・ノートルダム大聖堂

最後にご紹介するのは言わずとしれたパリ最大の教会、パリのノートルダム大聖堂。2019年の火災により、現在オルガンも含めて改修中です。

パリで2番目に大きいオルガンは、1733年にフランソワ・ティエリーが建設。1783年にクリコの再建を経て、カヴァイエ=コルが1868年に今の形に再建しました。

晩年のフランクの演奏をサント=クロチルド教会で聴き、最後の「フランキスト」となった盲目のオルガニスト、ルイ・ヴィエルヌは、1900年にノートルダムの正オルガニストに選ばれ、死の瞬間までその座にいました。1937年6月、1750回目の演奏会の最後の即興演奏中に息を引き取るまで。

残念ながらヴィエルヌによるフランク作品の演奏は残っていませんが、現在4人いる正オルガニストの一人オリヴィエ・ラトリーによる録音を聴いてみましょう。

フランク祝い隊
川上哲朗
フランク祝い隊
川上哲朗 Webマガジン「ONTOMO」編集部

東京生まれの宇都宮育ち。高校卒業後、渡仏。リュエイル=マルメゾン音楽院にてフルートを学ぶ。帰国後はクラシックだけでは無くジャズなど即興も含めた演奏活動や講師活動を行な...

三木鞠花
三木鞠花 編集者・ライター

フランス文学科卒業後、大学院で19世紀フランスにおける音楽と文学の相関関係に着目して研究を進める。専門はベルリオーズ。幼い頃から楽器演奏(ヴァイオリン、ピアノ、パイプ...