児玉 桃「コンクールの舞台であたかも即興しているように演奏することがどれだけ難しいか」

――多くの国際コンクールの審査を通して

児玉 ショパン・コンクールは5年に一度開催されます。エリザベート王妃国際音楽コンクールは4年ごとに行なわれます。ショパン・コンクールはもっともスパンが長いコンクールだと思います。今年はとくに注目度が高いようで、ある種の緊張感があります。このフィルハーモニーホールでお客さまがコンテスタントの演奏を聴き、また、配信で世界中の人がこのコンクールを聴くことができるのは、とても素晴らしいですね。

このコンクールで演奏されるのは、すべてショパンの作品です。ショパンをみんなで祝うようなコンクールで、彼に対する思いが強く感じられますよね。

 ――日本人のコンテスタントについて

児玉 一人ひとりの個性がとても強くあらわれていたと思います。ですから、ほんとうに興味深く聴いておりました。お客さまからもとても反響が大きく、そういう場面を見て、とても嬉しく思いました。

 ――審査で心がけたこと

児玉 さまざまな国籍のコンテスタントが参加しています。音楽は、国籍などすべてを超えた言葉であり、ニュートラルなものだと思います。

コンクールでは順位をつけなければなりません。一人ひとり、その前に聴いた人の演奏を忘れ、経歴やナショナリティなどといった情報を考慮することなく、その瞬間の演奏だけに集中して聴くように努めました。

 ――優れたショパン演奏とは

児玉 ショパンの作品は、一見、シンプルで綺麗なメロディや心地よく聞こえる音楽のように感じられますが、実はとても複雑に書かれています。作品解釈の枠の中にある自由さと言いますか……ハミングのような歌ではなく、“言葉”で語りかけるように……その時、呼吸をどこに置くかなど時間の使い方も考え、レガートを表現していきます。

その中で、“言葉”が何を語っているか。そこで、和声的な構造が重要になってくると思います。作品についての十分な理解を踏まえ、コンクールのプレッシャーの中で、あたかも即興しているように演奏することがどれだけ難しいか……でも、それができた時は、まさに特別な瞬間ですね。

(2025年10月19日)

道下京子
道下京子 音楽評論家

2019年夏、息子が10歳を過ぎたのを機に海外へ行くのを再開。 1969年東京都大田区に生まれ、自然豊かな広島県の世羅高原で育つ。子どもの頃、ひよこ(のちにニワトリ)...