意外にもほぼ予定通り開催されるオペラやピアノリサイタル

まずオペラ作品は、リヒャルト・シュトラウス《エレクトラ》モーツァルト《コジ・ファン・トゥッテ》の2作品。

《エレクトラ》については当初のキャストを変更せず、他方、新しく加わった《コジ・ファン・トゥッテ》には、《ボリス・ゴドゥノフ》の演出を手がけるはずだったクリストフ・ロイが起用されている。

こうして縮小されたオペラプログラムは、「カント・リリコ」と題する4回シリーズの演奏会によって補完されるようだ。ソニア・ヨンチェヴァ、アンナ・ネトレプコとユシフ・エヴァゾフ、チェチェーリア・バルトリ、ファン・ディエゴ・フローレスら、オペラへの出演を予定していた錚々たる歌手たちが、オーケストラとともに舞台に上がることになる。

他方、グリゴリー・ソコロフ、ダニエル・バレンボイム、マルタ・アルゲリッチ、アンドラーシュ・シフら、スター・ピアニストたちのリサイタルは、ほぼ当初のスケジュールを維持することができている。また、週末ごとのモーツァルト・マチネとウィーン・フィル・コンサートシリーズも、開催期間短縮のため初回がキャンセルになったほかは、予定通りに行なわれるようだ。

室内楽コンサートなどを中心に、音楽祭のメインホールのひとつとして利用されるモーツァルテウム大ホール。
20世紀初頭に建設された古いホールは客席のピッチも間隔も狭く、密集の危険性が高いため、新プログラムでは可能な限り「モーツァルトの家」や「フェルセンライトシューレ」など別ホールに振り返られた。

ゲストオーケストラ・シリーズや演劇部門は縮小

だが、公演数そのものが半分以下に引き下げられるなかで、著しい縮小を余儀なくさせられたセクションもある。

毎年、音楽祭の冒頭を飾る宗教的音楽の連続演奏会、「オーヴァーチュア・スピリチュエル」がプログラムから消えた理由には、主会場となる教会内で感染予防策を徹底することが難しいという事情もあるのだろうか。

さらに、内外から多くのオーケストラを招いて行なわれるはずのゲストオーケストラ・シリーズは、ベルリン・フィル、オーストリア放送交響楽団、そしてウェスト・イースタン・ディヴァン管弦楽団の3公演のみとなった。

6演目を予定していた演劇部門も、プログラムを半減させている。とりわけ、ザルツブルク近郊、ペルナー島にある製塩所跡の劇場は、その独特の雰囲気で演劇ファンに親しまれたが、観客を専用シャトルバスでピストン輸送する必要があるため、今年は会場として使用しない決定となったようだ。

ペルナー島の劇場。
休憩時には中庭にビュフェが設けられ、多くの人で賑わっていた。

しかし、音楽祭の起源となった野外劇、『イェーダーマン』は従来通り14回公演を維持し、100年前の初演日に当たる8月22日には、特別記念公演も行なわれることになっている。さらに、昨年ノーベル文学賞を受賞したオーストリアの作家、ペーター・ハントケによる最新戯曲作品、『ズデニェク・アダメツ』の世界初演をプログラムに残したことにも、音楽祭運営本部の強い矜持が見て取れるだろう。

混乱するチケット販売

多くのファンの心配とは裏腹に、新しいプログラムは、ザルツブルク音楽祭ならではの華やかな雰囲気と高い精神性を十分に保つものとなった。これはまさしく、「細部に宿る悪魔」に対して全力を尽くして戦おうと決意した、音楽祭関係者の努力のあらわれと言えるだろう。

だが、運営側の戦いは、実際にはまだ序盤に差し掛かったばかりなのである。開催に向けて、今後もさまざまな問題が山積していることは明らかだ。

何より、ようやくプログラムが決定したものの、チケット販売プロセスの展開が現段階でまったく予想がつかないのである。チケットボックスの情報によると、新プログラムのチケットは、まず、すでに旧プログラムのチケットを購入している顧客に対して希望に応じて分配され、その後6月29日から寄付支援者とフェスティバルフレンズ会員向けの優先販売を開始、7月6日に旧チケットを持つ顧客による追加購入を受け付けたあと、7月13日に一般発売がスタートするらしい。

すでに購入者の手元に郵送された旧プログラムのチケット。
購入者は現在、払い戻しか、新プログラムのチケットへの振替かを選択できる状態になっている。

チケットの流通、価格、渡航制限……いまだ残る不安

しかも、現段階では席種と価格は一切公表されていない。6月9日の会見によると、座席については1人の観客に対して前後左右を空けた「ダイヤ型」のプランが決定しており、販売座席数はホール収容人数の3分の1程度になるといわれている。

販売スケジュールは決定したものの、はたして一般販売までにチケットの余剰は出るのだろうか。

そして、観客数を極度に制限した公演の入場券は、どれほどの価格で提供されるのか。

さらに、現時点でなお多くの国が渡航および入国制限の対象となっている状況下で、観客のおよそ50パーセントを国外から集める当音楽祭にとって、チケットの分配を受けた人びとが実際に公演に足を運べるのかという問題もまた、無視できないだろう。

開催まで2ヶ月を切った現在、プログラム決定後の次の段階をめぐって、多くの要因がいまだ不確定な状態のまま残されているのである。