「コンクールを通してやっと自分を受け入れられた」

太田糸音さんは、成熟と無邪気さが場面ごとに覗くモーツァルトの協奏曲、作曲家の心に深く入り込んでいくようなシューマンのピアノ・ソナタを演奏したリサイタルで、豊かな音楽性を聴かせてくれました。セミファイナルを終えたあと、「コンクールを通してやっと自分を受け入れられた、好きになれた。それが今回の目標でもあった」と話していました。

「ベルリンに留学してから考える時間が増えて、生き方が変わりました。私にとってコンクールは課題が見つかる場でもあって、今回も苦手だと思っていたレパートリーが入っているのを見て、喜んで勉強しました。

今日も会場に出発する前、急に怖くなった瞬間がありましたが、そんなときはホームステイ先の広い庭を散歩しました。この庭は、森に深く入っていくかのようなシューマンのソナタの世界を思わせてくれます。こういう身近な経験をポジティブな方向に変えて考えられるようになったのが、最近の自分に起きた変化でもあるんです」

ブリュッセルでの日々が「とても充実していた」という太田さん。コンクールは結果が注目されがちで、その功罪も昔から議論にあがりますが、その場をこうしてとても有意義に活用している若者がいるのだと感じさせてくれました。

太田糸音のセミファイナルにおける舞台。一次では、ハイドン「ソナタ ト長調Hob. XVI:6」、ラヴェル「夜のガスパール」よりスカルボ、リスト「パガニーニによる大練習曲 第6番」、プロコフィエフ「4つの練習曲 第1番」を演奏。セミファイナルのリサイタルでソコロヴィッチ「ピアノのための2つの練習曲」、シューマン「ソナタ第1番」、モーツァルトのコンチェルトは第9番を演奏 © Alexandre de Terwangne