亀井聖矢さんは、一次で「イスラメイ」、セミファイナルのリサイタルでは「ノルマの回想」(選ばれなかったもう一つのプログラムに「ラ・カンパネラ」)と、長く付き合ってきた得意のレパートリーを各ラウンドに入れ、同時に細川俊夫作品や新作課題曲で幅広い能力もしっかり見せて、第5位に入賞。
なかでもファイナルで演奏した、やはり彼にとっての十八番、サン=サーンスの「ピアノ協奏曲第5番」は、懐かしい風を吹かせたり、刻々と変化する空模様を感じさせたり、オーケストラと愛らしい掛け合いを繰り広げてみたりと多彩。疾走感とともにエネルギーが爆発した終楽章では、思わず体を揺らす聴衆の姿もちらほら、大喝采が起こりました。
演奏を振り返り「すごく集中していました。いろいろなことを考えながら。弾いているときは、速くなっていたとは思いませんでしたけど!」と亀井さん。
一見、オーケストラが亀井さんのスピードに必死でついていっているように見えましたが……。
「僕というより、オーケストラが速かったんですよ! 一度リハーサルのときに置いていかれそうになって、これまでこの曲で追い越されたことなんてなかったからびっくりしました(笑)。指揮の大野和士さんの好みも、僕の好みもそうだったので、余計にそちらの方向にいったのだと思います」とのこと。
亀井さんはコンクールが始まる前から、4月に予備予選のあったショパン、そしてエリザベートへの挑戦でコンクールは終わりにして、作曲を含め、改めて勉強する時間をとりたいと話していました。褒賞ツアーで忙しくなる順位だとそれはそれでどうしようとなるかも……とつぶやいていたことも。
「第5位をいただいてよかった。これからはやりたいことを開拓したいと感じていたところなので」という言葉からは、23歳の若さですでに忙しい演奏スケジュールをこなしながら、同時にもっと新しい何かを掴みたいという意欲のはざまで思考し続けた彼ならではの心境が垣間見られました。これからどんな道を切り拓いていくのか、楽しみです。