「チャペルで美しい時間を過ごせたことは貴重だった」

全ラウンドで堂々とした音楽、確かな意志を感じる表現とともに、安定したステージを届けた桑原志織さん。

毎年このコンクールを聴いているという現地の日本人音楽家の方が彼女を「女神さま」と呼んでいましたが(私が桑原さんを探していたら「あっ、女神さまがいらっしゃいましたよ」と教えてくれる!)、まさにそんな包容力と輝かしさをもつ音楽が魅力。800席のフラジエから2200席のボザールに会場を移してもボリュームのある音を響かせ、ピアニストとしてのベースの強さを見せてくれました。そしてチャペルで自分と向き合う時間を過ごした1週間を、「結果にかかわらず美しい時間を過ごせたことは貴重だった」と振り返っていました。

その舞台での落ち着き、さらには集合写真撮影のときの完璧な立ち姿、でも話しているときには大らかで親しみやすい表情も見せてくれる様子から、ふだん息抜きになにをされているのか気になって尋ねてみると……。

「本を読んだりドラマを観たりもしますけれど、趣味として挙げるとすれば、香り系ですね。フレグランスとかパフュームが好きです。

香道にも興味があって、日本では年に何回か、例えば源氏物語や季節に結びつけた香りをきくということを楽しんでいます。海外にいると、日本の伝統的なものを身につけたいと感じるようになりますが、花道や茶道は学び始めたら大変だと思っていたところ、香りが好きなこともあって関心を持ちました。もともと神社やお寺のお香も好きなんです!」

イメージ通りを超えてくるご趣味でしたし、そんな好奇心や優雅さは音楽にもにじみでていますね。秋にはショパンコンクールへの参加も決まっているので、コンサート以外でもまたその音楽に触れる機会がありそうです。

桑原志織のファイナルにおける舞台。一次では、ハイドン「ソナタ 変ホ長調 Hob. XVI:28」よりアレグロ・モデラート、ショパン「エチュードOp.25-11」、ブラームス「パガニーニの主題による変奏曲 第2巻」、ラフマニノフ「音の絵Op.39-1」、セミファイナルのリサイタルで、リスト「ダンテを読んで」(巡礼の年 第2年「イタリア」より)、ソコロヴィッチ「ピアノのための2つの練習曲」、ラヴェル「ラ・ヴァルス」、モーツァルトのコンチェルトは第17番を演奏。ファイナルではクリス・デフォート「Music for the Heart」、ブラームス「ピアノ協奏曲第2番」を演奏した
© Alexandre de Terwangne