そして、強い想いとともにエリザベートコンクールに再挑戦し、ファイナリストとなった吉見友貴さん。
「4年前のエリザベートは、初めて受けた海外の国際コンクールでした。そのときはファイナルに行けず、悔しいというより、とにかくあの舞台で弾きたかったという思いがあって。譜読みが速いので新作課題曲に挑戦してみたかったし、なによりこのコンクールの格調の高さを感じていたから、ここに帰って来たいと思っていました」
ショパンコンクールは書類選考を通過し予備予選にエントリーされていましたが、エリザベートの本大会出場が決まったので、こちらに集中するために辞退したそう。「人生で2回しか受けられない決まりのあるエリザベートで、絶対に悔いがないよう、心から良いと思える音楽をしたい、4年間のすべてを出したいと思いました」
吉見さんのステージには、研ぎ澄まされた一音一音が輝き、生を楽しむエネルギーが感じられました。とくに記憶に残るのは、挑戦を熱望していたファイナルの新作課題、クリス・デフォート「Music for the Heart」。吉見さんはトップ奏者だったので、この作品はすごく魅力的だなと思って聴いていたわけですが、それは彼の解釈による部分も大きかったことをのちに知ることになります。
最終的に作曲家がもっとも評価したのも吉見さんの演奏で、コンクールのライブ盤にも収録されることになりました。そんな評価をうけて、「これがやりたくてここにきたのだから、ほんとうに嬉しい」とのこと。
チャペルでの1週間やここでの経験を振り返り、吉見さんはこう話します。
「携帯がないことで誰の言葉も気にせず、自分の音楽に向き合い、ここまで積み上げたものを磨き上げるかけがえのない時間を過ごせました。練習で時間が溶けていく感覚はほんとうに久しぶり! 一生心に残ると思います。
これまでもっと自分を出してオープンになれといわれても理解しきれていなかったのが、このコンクールに向けて準備をしているなかで、やっとわかりました。ようやく点と点が線で繋がりました」
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今回のエリザベートコンクールは、強い意志と個性を持った日本の6人のピアニストたちの心に、“挑み、演奏が聴かれ、結果が出る”ということ以外の意味を残したといえそうです。