イギリス文学には、『不思議の国のアリス』、『ナルニア国物語』など数々のファンタジーの名作がありますが、20世紀前半にイギリスの音楽界でもファンタジー(Phantasy)というジャンルが盛んになったことをご存知でしょうか?
政治が不安定な時代に、多くの作家はイギリスの「Stiff Upper Lip(何事にも動じない)」という考え方に共感し、感情の抑制と冷静さを重視しました。そんな中、音楽でもナショナリズムへの意識が高まり、レイフ・ヴォーン・ウィリアムズ(1872-1958 以下、RVW)やグスターヴ・ホルスト(1874-1934)は、古くから伝わるイギリスのメロディや民謡を収集し、独自の「イギリス音楽」のスタイルを確立させました。この時代の音楽において、ファンタジーというジャンルは過去の蘇りをもたらし、作曲家に豊かな表現の自由を与えました。
ヴォーン・ウィリアムズの《タリスの主題による幻想曲》(1910)は、トマス・タリス(1505−1585)の主題を元に、グロスター大聖堂のために書かれました。大聖堂の回廊は、ハリー・ポッターの映画で頻繁に登場するロケ地です。この壮大な空間に響きわたる音を創るために、RVW は2群のオーケストラを分けて配置し、さらにソロの弦楽四重奏パートを加えました。
ヴォーン・ウィリアムズ《タリスの主題による幻想曲》
ハリー・ポッターの物語では、過去の記憶の喪失や蘇りがしばしばテーマとして現れます。過去と現在が交差するファンタジーの世界と溶け込むように、この旋律は時代を超越し、荘厳な空間に漂う超自然の力を思い起こさせます。
タイムレスな普遍性をもつハリー・ポッター・シリーズとイギリス音楽は、これからも広く愛され続け、私たちを未知の冒険へ連れていってくれることでしょう。