読みもの
2023.05.14
小町碧の「英国音楽の旅」#1

チャールズ国王の戴冠式と音楽〜伝統と新たな時代を象徴する48曲

2023年5月6日に行なわれたチャールズ国王の戴冠式。1953年のエリザベス2世の戴冠式以来70年ぶりの式典で、音楽が再び重要な役割を果たしました。

チャールズ国王はクラシック音楽、とりわけ英国音楽に造詣が深く、芸術の擁護者です。今回の戴冠式では国王自身がすべての音楽を選曲し、14人の作曲家に作品を委嘱しました。新たな時代の到来を象徴的に表現した国王の選曲には、どのような想いが込められていたのでしょうか。

小町碧
小町碧 ヴァイオリニスト

ロンドン在住。近年は演奏、作曲、執筆、レクチャーなど、多方面で活躍中。12歳でチューリヒ室内管弦楽団と共演してデビュー。以来、世界各地で演奏。英国王立音楽院の音楽学士...

バッキンガム宮殿からまっすぐ進んだ道の先に位置する門、アドミラルティ・アーチ。戴冠式の朝、チャールズ国王とカミラ王妃が乗った馬車はこの門をくぐり、寺院へ向かった。英国国歌の歌詞にある「Happy & Glorious (幸福と栄光をたまはせ)」という言葉で飾られている(撮影:筆者)

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戴冠式の歴史上初の多様性が音楽にも

今回の戴冠式では、チャールズ国王は「伝統に根ざし、現代の英国を反映する」というテーマを掲げ、典礼の伝統に基づきつつ、新たな要素を取り入れました。多人種、多宗教が共存する現代の英国を反映し、音楽にも多様性と包括性を求めたのです。

女性の聖職者や様々な宗教の代表が儀式の進行に加わったように、音楽では、4人の女性作曲家が委嘱を受け、歌詞も様々な言語で歌われました。また、聖歌はこれまで少年合唱隊が歌うものでしたが、女声合唱隊も加わりました。いずれも戴冠式の1,000年超の歴史において、初めてのことだったのです。

ロンドンのピカデリー・サーカス。街中の道路や建物のいたる場所が国旗で飾り立てられ、華やかで祝福に満ちた雰囲気が感じられた
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英国音楽ファンもびっくり!な音楽の祭典

ウェストミンスター寺院で約4時間にわたり演奏された曲数は、なんと48曲。そのうち12曲は今回の戴冠式のために作曲された作品です(ちなみに1953年のエリザベス2世の戴冠式では、40曲のうち9曲が委嘱作品)。今回の戴冠式では予算削減のため、あらゆる部分で規模が「スリム化」されましたが、音楽においては過去最多の曲数でした。

音楽の内容も、これまでになく多彩でした。およそ350年の英国音楽の歴史をたどるさまざまな時代の作品(チューダー、ヴィクトリア、エドワード朝)や、多言語で歌われる聖歌(英語、ウェールズ語、スコットランドのゲール語、アイルランドのゲール語、ギリシャ語)、そしてさまざまなジャンル(クラシック、聖歌、映画、ミュージカル)を代表する14人*の作曲家による委嘱作品。

*12曲の委嘱作品のうち1曲は3人の作曲家による共同作品

昨年9月に同寺院で執り行なわれたエリザベス2世の国葬の音楽や、1953年の戴冠式も英国音楽が中心でしたが、「チャールズ国王流」のプログラムは、英国音楽における多様性と包括性を完全に表現したものだと言えます。

ショーウィンドウに飾られたチャールズ国王のポートレイト

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