決して出しゃばることのない静謐な音楽

ところで、一昨年僕の校訂したフォーレのピアノ小品集が音楽之友社より刊行され、すでに4版を重ねました。割と知られているオーケストラや連弾の作品のピアノ独奏用編曲に、最初期と最晩年の(少し難渋な)ピアノ作品を組み合わせたのには、深いわけがあったのですが、それはともかく、こんなに皆さんの手に取っていただいていることは嬉しいことです。

《パヴァーヌ》《夢のあとに》《月の光》などは、美しい旋律とハーモニーで、なんともいえない雰囲気を醸し出しています。これらの作品は、BGMやコマーシャル音楽にも多用されていますが、フォーレの作品が纏っている雰囲気は、現代の音楽ともごく自然に共存し得るものです。クラシック音楽ファンならずとも、いわゆる隠れファンや、彼の作品とは知らずにそれらを愛好している人は意外に多いのです。

しかも、フォーレの音たちは、圧倒的な品格で、現代の音楽の中でも屹立しているのです。それなのに、その存在感の現れは極めて静謐なもので、決して出しゃばることがありません。フォーレを愛する人たちは、実はこうした謙虚な側面も、知らず知らずのうちに感知し、そういった面も愛しているように思います。