AI時代に著作権をどう捉えるか アーティストの命に直結する問題

町田 私は今、美術大学で非常勤講師を務めているのですが、アーティストの卵たちの中には、AIの登場で絶望感にとらわれている人もかなりいます。とくにイラストレーターなど、産業と直結するクリエイティブな仕事は、どんどん窮地に追い込まれている印象があります。

ユーザーからすれば、指定通りの作品が簡単に、しかもフリーで手に入るとなれば「人間のアーティストには著作権があって、お金もかかるしややこしいよね」ということになってしまう。この大きな波の中で著作権をどうとらえるかは、アーティストの命に直結する問題だと思います。

橋本 AIの問題は、町田さんも私も関わっているアーカイブの問題とも深い関係がありますね。音楽でも美術でも、あらゆる過去の作品は「知のインフラ」であり、そこから先人たちが到達した知恵を学ぶことで、新しい作品が生み出されていく。

町田 ええ。過去の作品を、誰もが気軽に参照し、学べるようにアーカイブ化することが大事だと考えているのですが。結局、そういった過去の積み重ねの上にAIが成り立っているわけですよね。先人たちの知恵の集積を、まるごとAIが吸い込んでいる。そのために現代のアーティストたちが苦しい思いをするとしたら、すごく皮肉なことです。

AIは人間のアーティストが生み出した作品を学習して生成能力を高めているわけで、今後もしAIの影響によって人間のアーティストが育たなくなれば、それこそAIは新しい知を取り込めず、自分で自分の首を絞めることになるのではないでしょうか。だとするならば、たとえばAIが生み出した収益の一部を学習料(生成における著作物使用料)のような形で当該芸術分野に還元していく、というようなことも考えられてしかるべきだと私は思います。

町田 樹(まちだ・たつき)
1990年生まれ、神奈川県川崎市出身。3歳からフィギュアスケートを始める。2014年、ソチ五輪で団体戦と個人戦で5位入賞、翌月の世界選手権では銀メダルを獲得。同年12月に競技者を、18年10月に実演家を引退。現在も研究生活の傍ら、振付家、舞踊家としても活動している。
早稲田大学大学院スポーツ科学研究科博士課程修了後、國學院大學人間開発学部助教、2024年4月より准教授に就任。博士(スポーツ科学)。主著に『アーティスティックスポーツ研究序説――フィギュアスケートを基軸とした創造と享受の文化論』(白水社、2020年)、『若きアスリートへの手紙――〈競技する身体〉の哲学』(山と溪谷社、2022年)、監修を務めた『さあ、氷上芸術の世界へ――フィギュアスケートと音楽』(音楽之友社)などがある。

橋本 著作権者が、財産権としての著作権行使の機会を奪われてしまうとしたら、誰も新しいものを生み出さなくなる。文化がAIに支配されて終わる未来が来るのか、それともAIをうまく利用することでさらに豊かな文化が生まれるのか。今はその瀬戸際のような気がします。

先日の「インターネットと音楽についての法律相談室」の取材でも、「AIに取って変わられない仕事とは何か」という話題で盛り上がったのですけれど。私はやはり、人間がつくる芸術は最後まで残ると思いたいです。AIと違って、人間が学び、ひとつの作品を完成させるまでには気の遠くなるような時間や努力が必要だけれど、その過程にドラマがあるからこそ、人を感動させるのではないかと思うのです。

町田 同感です。本当に濃厚な話題で、まだまだ話し足りませんね……。また機会があれば著作権法に関する最新の動向や先生のご研究の成果についても、ぜひ教えてください。ありがとうございました。

橋本 こちらこそ。今日はありがとうございました。