著作権法は、著作物を扱う者が守るべきマナー

橋本 クラシック音楽は著作権が切れているケースが多いので、問題になることは少ないと思いますが、ヴォーカル曲の使用がOKになってから、著作権が保護されている現代曲もよく使われていますよね。それなのに、著作権処理が個人に任されているとは驚きました。

私も著作権が切れていない作品を公演で演奏しようとしたけれど、著作権処理が必要だったために断念したことがあります。その曲の音楽著作権をJASRACなどの団体が管理している場合は、そこに一定の使用料を払えば使用できますが、そうでない場合は権利者を探し出し、直接交渉して許諾を得るしかない。

町田 そのような個別の権利処理なんて一個人ができるはずがありませんよね。国際スケート連盟は、音楽著作権について啓発もルール整備もしないまま、2014年にヴォーカル曲解禁に踏み切ってしまいました。以後、現代曲が使われることが増えて、フィギュアスケート選手が著作権侵害で訴えられるリスクはますます高まっています。公にはなっていませんが、音楽著作権者がスケーターに対して音楽使用の差し止め請求を行なうケースが、実際に時々起こっています。

橋本 著作権を侵害された人は、その侵害行為の差し止め請求損害賠償請求をすることができます。差止めが認められると、その音楽を使えなくなります。フィギュアスケートのプログラムで、音楽だけを変えることは難しいですよね。

町田 差し止め請求をされたら、シーズン中に心血を注いで練習してきたプログラムが競技会で一切滑れないという事態になります。でもこれはフィギュアスケートだけではなく、新体操、アーティスティックスイミング、チアダンスなど、音楽を使うアーティスティックスポーツすべてに起こりうることです。

橋本 演奏家にも同じことがいえますね。

町田 著作権法は条文こそ難しいですが、クリエイターや演奏家が最低限おさえておくべきポイントは、実のところそう多くはない気がします。法律や条文として捉えると難解に思えてきますが、著作権法は、いわば著作物を扱う者が守るべきマナーだと捉えると、より受け入れやすくなるのではないかと思います。私は、そのマナーの中でも、とりわけ重要となるのが「氏名表示権」ではないかと考えています。

橋本 同感です。著作者の氏名表示をきちんとすることで、トラブルをある程度回避できるかもしれませんね。

(#2[近日公開]に続く)

坂口香野
坂口香野

ライター・編集者。東京都八王子市在住。早稲田大学第一文学部美術史専修卒、(株)ベネッセコーポレーションを経てフリーに。ダンス関係を中心に執筆。盆踊りからフラメンコまで...